報復

「朝陽」

「ん?」

「高校の勉強って難しいの?」

「え〜っと!あぶねー!」

朝陽と咲月はリビングで対戦ゲームをしていた。

朝陽は咲月との会話で操作を間違えそうになり焦った。


「俺んトコは、たいして頭良い高校じゃないから。難しくないよ」

「そうなんだ。頭良くないんだ」

「…そっちかよ」

「頭、良さそうなのにね」

「…そう?」

「だって偉そうだから」

「そう?」

「そう!おりゃっ」

「あっ!てめぇ」

「おっし!おしおしおっし!」

ゲームに勝った咲月はガッツポーズをした。

「お前、ズルしたろ」

「してない。私が強かっただけだ」

「あー!やだやだ」

朝陽は両手を後ろにつき、足を投げ出すように座った。

「子どもか」

咲月は笑った。


「咲月は?」

「何が?」

「頭いいの?悪いだろ?」

「うるさいなぁ。普通だよ。英語だけ少しいい」

「あ、一緒」

「英語得意なの?」

「そう。むしろ英語しかできない」

「あははっ。そうなの?」

「だから、ニューヨークの高校行くのもギリギリでいいんだよ」

「そっか。英語の勉強はしなくていいんだ」

「そう。転勤先がニューヨークでラッキーだった」

「フランスとかドイツだったらね」

「それならまだマシだよ。インドとかだったら」

「あー、終わったわ」

咲月はクスクス笑った。


「なぁ、次マリオやろ」

「あ、ごめん。この時間、彼氏にLINEしなきゃ…」

咲月はゲームの片付けを始めた。

「ふ~ん。めんどくさい彼氏だね」

朝陽もゆっくりと動き出した。

「…うん」

「…え、そう思ってるの?」

「…私、LINE返すのすごく遅くて。この時間、すごく疲れる…」

咲月はため息をついた。

「それ、彼氏に言えば?」

「…言えない」

「何で?」

「…俺の事、好きじゃないの?とか言われたら困るし…」

沈黙が流れた。

「…時間、無限じゃないよ?」

「え?」

「自分の寿命なんていつまでかなんてわからないじゃん。俺はそれが明日だとしてもいい生き方をしたい」

「すごいね」

「そんなつまらない我慢してるの見るのもあまり好きじゃない」

「…つまらなくて悪かったな」

「彼氏に正直に言って、それで彼氏が別れるなんて言い出したら、そいつとはもう合わないよ」

「…うん。そうだけど…」

「そんなに好きなの?」

「うん…」

「そっか」

「朝陽は?彼女」

「ん?いた事ないよ」

「恋愛知ってますって言い方だったよね…」

「…彼女はいた事ないけど、経験はある」「そうなの?」

「不倫してたから」

「へぇ」

「相手の旦那にばれて」

「えっ。そうなの?」

「ボコられた」

「うわぁ。グーで?」

「嘘だけど」

咲月は朝陽の背中をバンッと力の限り叩いた。

「つまんない嘘つかないでよっ」

「だって。咲月、全部さらっと受けいれるから、面白くて」

朝陽はククッと笑った。

「…なんか朝陽ならありそうな話だなって思って」

「咲月ってさ、偏見とかないよね。不倫て聞いても、嫌悪感出さないし」

「別に他人の不倫なら、関係ないし」

「…自分が巻き込まれたら?」

「…死にそうになるだろうね」

「…渉、大丈夫…?」

「…さぁ」

「前科でもあるの?」

「さぁ。ただ、女友達は多いよ」

「…もし、浮気されたら俺に言って」

「え?」

「報復してやる…」

「あははっ。怖い。どうやって?」

「…無言電話」

「陰険」

「咲月の携帯から」

「ふざけんな」

咲月は笑った。

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