Miku Buddha

 まず、本会場に足を踏み入れた視線の先、展示会場の奥には仏陀ブッダが鎮座しています。しかし、その姿は金色でもなく、また一般的な螺髪をした姿でもありません。


 その姿は、一般的にイメージされ得る仏像が着る一枚の布をまとった、白一色の初音ミクの形を取っていました。


 こちらを制作されたのは、人形作家の猪瀬いのせ 暖基はるき氏。


 サブタイトルに「私は解脱しているのではないか?」と冠されたこの作品が、展示の最奥にて来場者を迎えます。


 仏陀といのは、「悟りを開き、すべての欲から解放され、解脱を果たした人物」というのが一般的なイメージではないかと思います。同時に、後世の多くのアーティストの手によって、その思想、またその姿も千差万別。誤解を恐れず言うのであれば、「人は皆、姿形の違う『仏=悟り』の形を持っている」と言えるかもしれません。


 また、仏像などに手を合わせて信仰するのは、「偶像崇拝ぐうぞうすうはい」と呼ばれる信仰の形のひとつでもあります。


 では、初音ミクはどうでしょうか。


 もはや知らない人はいないといっても過言ではない、インターネット音楽の、合成音声によるこの歌姫は、実に様々な人物によって多くの表現、多くの性格付けをされてきました。創作者の手によって生み出された多くの側面が「そんな初音ミクもいるかも知れない」と受け入れられています


 現代において「インターネットの歌姫」という、一種の共通認識コモンセンスを獲得した存在と言ってもいいでしょう。


 その在り方は、まさに多くの人たちの共通認識の存在であり、仏教の開祖としての仏陀と同一視できるのではないか?


 現代のわれわれが共有する、音楽、エンタメという一種の宗教の中で、この歌姫の存在は仏陀と等しいのではないか。


 そういった感覚を受けました。

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