第32話  Escape

高校最後にSと会った日の話をしよう。


私は諦めていた。

Sには新天地で輝かしい未来が待っている。

私は結局最後まで変わることができなかった。

受験も失敗して、最後の頼みの綱の結果待ちという宙ぶらりんの状態。

色々あってお互い気まずい雰囲気だったし、見かけても互いに話しかけないようにしていた。仕方ないとわかっていても辛かった。

高校の同級生なんて、大半は大学にいけば関わることもなくなる。それでも繋がっていたいと思うほどの存在ではなかった、それだけのことだ。


そういえば卒業式ではSと写真を撮ったっけ。

会わないように気を付けていたのに、Sの両親に見咎められて写真を撮って親同士で立ち話まですることになってしまっていた。

私もSも、関係の破綻を親には話せなかった。


何がきっかけだったか、はっきりとは覚えていない。私は肝心なことはいつも覚えていないので弱る。一つ一つは覚えていないような些細な出来事でも、小さな摩擦や不信感が蓄積していった結果だったように思う。

私は余裕を失い、焦りやSへの嫉妬を隠せなくなっていった。不安定になってSを振り回してばかりいた。

きっと甘えていた。傲慢にも、彼女ならどこまで付き合わせても許されると思い込んでいた。彼女の好意を試したかったのかもしれない。

Sは最初の頃は懸命に私を励ましてくれた。

私が立ち直らないのを見兼ねると今度は突き放した。

それで私が一層こじらせるととうとう怒りを露わにした。

私は余計に意固地になり駄目になっていった。

やがて詰られることもなくなり、彼女はすっかり私を見限った。

大体こんな流れだったと思う。


私の生活から彼女は消えた。たまたま出くわしても目を合わせることも言葉を交わすこともない。

彼女の周りにはいつも誰かいて、初めから私の居場所などなかったのだと改めて思い知らされる。

今まで彼女の一番近くを独り占めしていられた事自体が異常なのだ。

失ったのではない、元通りになっただけだ。

何の問題もない。


Sの両親は私が娘にいい影響を与えてくれたと高く評価してくれているようだった。うちの親はSと関わりはじめて私が反抗したり成績が下がったので苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

それでも私の数少ない友人と呼べる存在の親であり、似たような苦労を分かち合った者同士話は盛り上がっているようだった。

案の定、Sの親に問われ私の進学先が定まっていないことを決まり悪そうに答える両親の小さな背中を見て申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


卒業式の数日後、RとOと3人で日帰り卒業旅行をした。Оは堅実に進学が決まったが、Rは浪人するとのことだった。私は滑り止めの結果待ちだと正直に伝えた。


また受験生としての一年間の始まりの準備として予備校の試験を受ける日々。

毎日がまた灰色に戻って、Sといる時の熱に浮かされるような多幸感も忘れた。

ようやく現実に戻ってきた気分だ。


Sから会おうと連絡が来たのはそんな時だった。

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