第29話 つぐみ①
明くる日の昼休み、よくつるんでいる友達とお弁当を食べていると、少し遠くからAがこちらの様子を伺っていた。
こちらから呼びかけると、ホッとしたように顔が明るくなり小走りでやってきた。
『お邪魔したら申し訳ないと思ったんだけれど。これが例の本。私はもう何度も読んでるから返すのはいつでも大丈夫。』
緊張した声で早口に捲し立てると、私と一緒にいた友人達に軽くぺこりと一礼してまた駆けていった。
Aの背中が小さくなると、黙って私とAのやりとりの一部始終を見ていた友人達が次々と口を開き始める。
『SってAさんと話すんだ、どんな話してるの』
『2人って共通点なくない』
『Aさんって変わってるよね~』
『いつ見ても走ってるイメージ』
皆が思い思いにぱらぱらとひとしきり感想を口にして、私は相槌を打ったり『そうだね』と気のない返事をしてやり過ごした。
思いの外、彼女達は大して興味のない人間のこともよく観察している。なのに本質は見えていない。むしろ本質や内面的なものは問題外だからだろうか。
気づけば何事もなかったように皆違う話題に移っていた。
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