第26話 偶像③
(※S視点です。)
"実験"というと少し大げさな響きだが、
要はAの観察だ。
Aは8時前には教室で授業の予習か小テストの勉強をしている。
授業の合間の休みは今しがたの授業の内容について教師に熱心に質問するか、席で本を読んでいる。カバーをかけているのでタイトルはわからないが、何を読んでいるのだろう。
文字の羅列を見ると目がちかちかするから、本は嫌いだ。知ったところで読むつもりもないが、単純に彼女がどんな本を好むのかは興味があった。
彼女は私がしつこく話しかけると根負けしたように顔を上げ、素っ気無いながらも題名を教えてくれた。興味があるなら貸そうか、と提案してくれたが断っておいた。そう、と答えてAは再び本へ目を落とした。
読まないかもしれないのに大切な本を借りるのは申し訳ない。できない約束はしない主義だ。
でも、短くて読みやすい本なら読んでみたいな。
私が呟くように言うと、Aは顔をあげて微笑んだ。
探しとく、と短く答えると彼女は何事もなかったように読書を再開した。
私はしばらくAから目が離せなかった。
花がほころぶような微笑が胸に焼き付いた。
彼女はこんな風に笑うのだと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます