第7話 結び目③

もちろん、悪いことばかりではなかった。Sと関わり始めてから私を取り巻く世界は変わった。

それまで関わってこなかった人との付き合いが一気に増えて、私自身も以前より明るくなったように思う。

まさか高校生にもなってここまで生活が激変するとは。背伸びしてでもSの隣にいたくて、私は必死だった。

最初のうちは不慣れでSのフォローなしではうまく盛り上げれなかったけれど、だんだんコツを掴んで相手が期待する人間を演じられるようになった。


Sはそんな私を気遣い、私との距離を測りかねていた。

内心では一方的な関係で嫌われるんじゃないかと臆しつつ、あえて大胆に振る舞っていたように思う。

そんな彼女が時折見せる弱さや欲に私はたまらなく惹かれた。

ふとSと視線が絡まって頭の芯が熱くなる度に己の浅ましさを思い知らされた。

Sといると私まで変になってしまう。

どこまでなら許してくれる?

互いを傷つけることを恐れて触れ合えないヤマアラシみたいに、私達は居心地良くいられる距離を探り合った。

彼女の手が触れる度に、声を耳にする度に、他の誰かへの笑顔を目にする度に、胸がざわざわして苦しくなる。


私だけを見ていて

私以外にそんな笑顔を見せないで

他の誰のものにもならないで

ずっと私の傍にいて

声にならない言葉は、深く深く胸の奥に沈んでいく。


____あぁ、これが結び目か。

彼女に向けるこの浅ましい気持ちを思い知る度に、私は過ちを重ねていくんだ。


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