第4話 契機

Sからすれば私は純粋な興味の対象だったと思う。

人付き合いは最低限に留め大抵の事柄に関して傍観者でいる私は明らかに異質だった。


彼女の私に対する興味が一気に強まったと感じたきっかけは、現代国語の授業だった。

毎回授業の初めに1人がプレゼンをすることになっており、私は流行っていた『君の膵臓をたべたい』を紹介することにした。

お気に入りの一節を朗読しようと思ったのだ。


この作品には、今や未来を形づくるのは全て自分の選択だという内容の台詞がある。

些細な選択も、偶然や人のせいではなくて全て自分自身が選んできたのだと。


幼い頃から、誰かの敷いたレールに忠実に生きてきた私にとっては衝撃的な一節だった。

彼らはいつだって最善の道を示してくれた。でも、それが苦しい時もあった。

理由もなく反抗したい一心で困らせた事もあったけれど、本当に自分がやりたいことなんて結局わからなかった。

空っぽな自分に驚いて、無意味に抗うことも諦めて、仕方無しに退屈な日々を過ごしていた。そう思い込みたかった。

だから、他者に従うことも自分自身の選択だということは大きな発見だった。似た環境で育った級友にも刺さる言葉ではないかと思ったのだ。


プレゼン自体がうまくいったかはわからないが、話題の本を扱ったこともありそれなりに反響はあった。

Sがいつもより興奮気味に私の机にやってきて

話しかけてくれたことを覚えている。

正直、それまでは級友達もSがなぜ私にこだわるのか疑問だったと思う。

しかしその日を境に、私とSのやりとりを面白がって見ているだけだった子が話しかけてくれるようになった。

少しは認めてもらえた気がして、Sの隣りにいる資格があると思えて嬉しかった。

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