第17話 岐路
3月になった。
春、出会いと別れの季節。
すべてのことに始まりがあるように、必ず終わりはやってくる。
共通テスト以降は自由登校だったが、卒業式を目前に顔を出す子が増えてきた。
学校に来る子は行き先が決まって明るい表情をしているからすぐわかる。
互いの近況や進路、4月からの新生活についての話題が尽きない。
Sは念願の東京の大学に進学するらしい。本人からではなく、風のうわさで耳にした。
彼女とは、1月以来会えていない。
正確にはたまに校内で見かけても顔を合わせないよう、できる限り避けて過ごした。
彼女にだけは憐れまれたくなかったから。
向けられる眼差しが尊敬から軽蔑に変わるのが恐ろしかった。
多分Sはそんなことは気にしないだろう。
どんなに深刻な時も思わず笑顔が溢れてしまうような、悩みを吹き飛ばしてくれる気楽さと明るさが彼女にはある。
気休めだとわかっていても、不思議となんてことはないと思えてしまう。
彼女は揺るぎない軸を持って生きている。
図太く見えるが本当は誰よりも他人に配慮できる人間だ。
越えてはならない一線をよく弁えていて、距離感の取り方が絶妙なのだ。
相手のパーソナルスペースに軽々と入り込むが、決して気分を害さない。
彼女が愛される所以は運とか才能とか抽象的なものではなく、野生動物のカンに近い実戦を重ねて磨かれた技術にあるのだろう。
つくづくそら恐ろしい人だと思う。
私の進路はまだ定まらないままだ。
永遠に私の人生に春は訪れないという気さえした。
でもそんな事より気がかりなことがあった。
私達は本当に終わりなのか。
こんな幕引きで終わる程度のものだったのか。
自惚れかもしれないが、認めたくない自分がいた。
もう違うとしても、自分はSの中に確かに特別な位置を占めていた自信があった。
どれだけ考えても、今となっては無意味だった。
出口の無い迷路のように、延々と同じ思考を繰り返すだけだ。
そんな時、Sからメールが来た。
ようやくこの時が来た。
待ち続けていた死刑宣告を受けたような気分だ。
私達の関係に終止符が打たれるか否か。
いずれにせよ、これで答えが出る。
私は深いため息を付き天を仰いだ。
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