第16話 綻び
今思えば、もうこの頃には訪れていたのかもしれない。私達の関係の終わりの始まりが。
あの夢を見て以来、私はSへの想いを認めざるを得なかった。
Sを好きだ。「友達」だけじゃ足りない、もっと深く欲張りな感情で。
自分にまだこんな感情が眠っていたことに私は驚いた。
恋の微熱に胸が騒いでも、はしかみたいに過ぎ去って、いつの間にか忘れられるはずなのに。
なぜだか胸の奥がじくじくと痛んで忘れさせてくれない。
Sにとって私は、単なる通過点かもしれない。
私達の出会いに意味なんてなくて、長い人生の中のごく僅かな時間を過ごすこの檻で、互いの人生が一瞬交差しただけに過ぎない。
____だけど、私は違う。
私のSに対する想いは、いつのまにか私に向けられるSからのそれを超えてしまっていた。
彼女は口に含めば命を搦めとる甘い毒薬みたいに危険だ。
美しく、気高く、決して傷つかない。
彼女の唇から溢れる言葉に期待してはいけない。
セイレーンのように、破滅をもたらす不吉な存在なのだ。
自分を守る唯一の術さえも手放して、もっと深くへと私は一人で堕ちて行く。
Sが私の腕をとり、自らの腕を絡める。
彼女の少しハスキーで甘い声、花が綻ぶような笑顔に、私の心も緩んでいく。
彼女は愛を解さない。こんなに近くで触れ合っているのに、どれほど私が彼女を想っているかまるでわかっていない。
でもそれでいい。彼女にだけは知られてはならない。
もしSが私の気持ちを悟ってしまったら____その時は私から去らなくてはならないだろう。私が壊れてしまう前に。
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