最終話
―While in Another Place―
「まったく……わたしの手を無駄に煩わせないで欲しいものね」
「ははは、これは手厳しいものだね」
「こちらとしては早く来てもらえれば無粋な猿芝居をせずに済んだのだがな」
どこかの世界――世界救済教団の教会の内部にてマシェット・メイヤールは二人の男を乱暴に床へと落とした。
「痛いじゃないか。この肉体美が汚れたらどうするんだ」
「命があっただけマシだろう」
乱暴な扱いをされた男二人――永洲如闇と禍死魔不善が床で転がされながら言い合いをしていた。
「やぁよく帰ってきたね。無事でボクは嬉しいよ」
暗闇の向こうから若い男の声が響く。そしてその少し後、暗闇が晴れると声の主は玉座の様な大きな椅子に尊大な格好で座っていた。
「ただいま戻ってまいりましたセムリ様」
マシェットがいち早くその気配に気づき片膝を立てて頭を垂れ、それに続いて禍死魔と如闇が同様の姿勢とる。ただ一人こにあだけ周りが何をやっているのか分からず、マシェットの服を掴んでただ見ていた。
「うん、見えているよ。それよりも早く顔を上げてくれないかい。キミ達の報告が聞きたいからね。あぁそうだ如闇は立たないでおくれ、流石にキミの裸は眼に悪い」
「なんだいセムリ様。以前はこの美しいボディを見ても何も言わなかったじゃないですか。まさか、その少年の身体のせいで直視できなくなったと? だとしたらぼかぁ哀しいねぇ」
「かもしれないね。でもそれも束の間、この少年の夢はもうボクが掌握したしじきにこの身体は完全に制御下に置けそうだよ」
ほんの少し前まであったセムリの声は今や完全に零弥のものとなっており、それだけで取っても零弥の意思というのはこの身体には介在していないように見えた。
「そうでしたか、それはめでたい。だがそれと同時に残念だ、その身体少し面白い実験に使えそうでしたのに」
「ふふ。焦る必要はないさ用が済めばこの身体は如闇にあげるし、今回この身体を見つけ出した褒美も君達に与えないといけないからね」
「それはありがたい。ですがその前に報告の方を済ませておきましょうか」
新たなセムリの姿にテンションの上がった如闇は思わず報告を忘れてしまう。だが、セムリは特段その遅れを気にした様子もなく如闇と禍死魔――両名があの世界で起こった出来事を簡潔に報告した。
「そうか……鳴風梨鈴はボクの元から去ったか。ふむぅ多少は痛手だけどまぁいいか、どうやらその娘は当主じゃなさそうだし泳がせておいてよ。何かあれば薬袋から報告があがるから今回失態を挽回したいならその時にお願いね」
「挽回のチャンスを頂けるとは……ありがとうございます。この永洲如闇、全身全霊をもってお役に立って見せましょう」
「こちらもやれるだけの事はやろう」
「うん。期待しているよ」
禍死魔と如闇が改めてセムリへの忠誠を露わにする。一方でマシェットは二人の事に一切の興味を示さず、側にいるこにあとぬいぐるみで遊んでいた。
「ん~……やっと終わったの?」
「なんだねその態度は。マシェットよ、君には助けられたがセムリ様の前でそのような態度は流石に看過できないねぇ」
マシェットの言葉に如闇が怒り、そして勢いよく立ち上がる。
「ギャッ! わたしとこにあにそんな汚い物を見せるな!」
マシェットの視線の先にとても直視できないモノを見せつけられ、反射的に如闇を他の所へと転移させてしまう。
「あーあ全く今日は散々な一日だったわね。それではセムリ様、わたしは自室に戻らせてもらいますわ」
「うん、分かったよ」
「ではこちらも失礼させていただきます」
如闇がいなくなったのを皮切りに、マシェットとこにあ、そして禍死魔がセムリのいる部屋から退出していく。
「なかなか面白い一日だったなぁ今日は。そうだ月鏡、例の世界の状況はどうなっているかい?」
シン――と静まり返った部屋でセムリは一人の名前を呼ぶ。すると玉座の裏からスーツ姿の女性が音もなく現れた。
「F&Sカンパニーという会社から妨害工作が行われているようですね。もう少し手がかかるようであれば私が直接手を下しますがどうしますか?」
「うーん。少し急いでおきたいところだけど月鏡を行かせるのはもったいないなぁ……そうだ! 最近入団して来た者に無堂(むどう)っていうのがいたよね? そいつを使って内情偵察とかさせて強請らせる事とかできないかな?」
「無堂……? あぁ無堂稀(き)羅(ら)李(り)ですね。確かに彼女なら適任ですね。では直ちに手配しておきます」
「よろしく頼むよ」
月鏡が仕事のため退出する。そして部屋には真の静寂が訪れる。
「ふふっ……あそこを落とせばあと一人。せいぜい泳いでおくれよ鳴風梨鈴」
異界渡りの双姫~眠れる遺跡と緑炎の闘姫~ くろねこ @an-cattus
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