さん、部活バカ、初めてのことに戸惑う

 俺はサッカーボールばかり追いかけているようなサッカーバカで、恋なんて本当に無縁なもので、雅也んみたいにイケメンじゃないし、たっつんみたいに可愛い所もない。自分なんてサッカー以外何の取り柄もないって思ってて、告白とかこの先される事なんてないだろうなと思ってた。


 なのに。


「い、今……何て、言ったっスか?」


 起きた状況をしっかりと把握できず、三好さんに質問を返す。俺の聞き間違いかな? 『好き』って言葉が聞こえた気がしたんスけど、違うっスよね?


 三好さんを見ると、彼女は真っ赤に染まった顔で、一度深呼吸をして、俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「篤哉さんの、事、好き、です………って、言いました」


 聞き間違いじゃ、ない………………。


 その言葉を聞いた後、俺は派手に後ろにひっくり返った。それを見て三好さんは俺の名前を叫んで駆け寄って来た。


「あ、ああ篤哉さん!? だ、大丈夫ですか!?」

「だ、だだ大丈夫っス…………………」


 告白……。えっ、ちょっと待って下さいっスよ……?


「俺達、初めて話したっスよね?」

「…………いや、今日で二回目です」

「へぇ……ってえぇええええ!?」


 全く記憶に無いので、焦りまくっている俺に三好さんは頬を真っ赤にして話す。


「い、一度、篤哉さんに助けてもらった事があって…………。篤哉さんは覚えていないかもしれないですけど、私にとってはとても大切な出来事でした」


 そう言って彼女は俺に会った時の事を話し出した。


 それは去年の冬の事。

 三好さんは内気で、話すのが下手で、ドジで、その上、友達も少ないらしく、その所為で先生によく怒られているような男の子に掃除の時に箒に躓いてバケツの水をかけてしまったそうだ。それが原因で目を付けられてしまい、その日の帰りのホームルームが終わった後、その男の子と数人のガラの悪い奴らに体育館裏について来いと言われ、怖いと思いながらも言う通りにして行ったらその男の子がもうご立腹だったようだ。


『お前よくも俺に汚ねえ水をぶっかけてくれたな。それなりのお詫びをしてもらおうか』

『ほ、ほほ本当に申し訳ありませんでした。ってえ? 何するんですか………!?』

『アンタ、近くで見ると結構可愛いじゃん。俺の彼女になれば許してやんよ』

『……っ!? い、嫌! やめ……っ』

『そこの下衆い男子!! 嫌がってる女の子に何してるんスか!』


「えっ? もしかして、俺っスか?」

「はい。その時名前も知らなかったですけど私の事を助けてくれて」


 そうだ、思い出した。その後の流れはこうだ。


『明らかに嫌がってる女の子にキスしようなんて男子として駄目っス! 超超超カッコ悪いっスよ!!』

『あ? お前喧嘩売ってんの? 俺達は好き同士だよ。無理矢理じゃねえよ』

『お前、震えてる女の子を見てシラを切るんスか? そんな事して男として恥ずかしくないんスか?』

『はあ? 何言ってんの? ヒーローごっこですかー』


 俺はケラケラ笑うあいつらをキッと睨み付けて、三好さんをそいつらから引き剥がして自分の方に寄せて助けて言った。


『お前ら、男じゃないっス。只の下衆野郎っス。男は女の子を守る、女の子に優しくする、それが男としての務めっス。お前らはこの子に触る権利すらないっス』

『あ? なんだよ、お前、そいつとどういう関係だよ?』

『知り合いっス。お前らがこの子にもう一回嫌がるような事してみろ。許さねえ』


 雅也んに似せて睨みつける俺の顔を見てそいつらは慄いてその場から立ち去っていった。よっわーって思った記憶あるっス。その後、三好さんは話を続けてくれた。


「その人たちが立ち去った後、篤哉さんが知り合いでもクラスメイトでもない私に怪我はないかとか、何もされてないかとか聞いて、私が無事だったと分かった時に笑いかけてくれて。『よかった』って言ったその笑顔にドキっとしてしまったんです。その後すぐ、部活の先輩に名前を呼ばれて部活に戻った時に名前を知って……。気が付けば目で追っていて。あの時の篤哉さんはなんだかヒーローみたいで、カッコよかったです。そんな優しくて暖かい篤哉さんだから、私は好きになったと思うんです。ってごめんなさい、こんな恥ずかしい話をして……!!」

「あ、いやいや!! 全然いいっスよ!」


 そう語ってくれた三好さんが、可愛いと思ってしまった。って変態か俺。彼女が俺を好きになった経緯を聞いて照れまくってるっスけど、落ち着け。

 だけど、顔を真っ赤にして俯いている三好さんを見ると俺にもその熱が感染る。

 初めて告白されて、俺はなんて返事をすればいいのか分からない。だけど、彼女を傷付けてしまったら男として駄目だ。三好さんの事は嫌いじゃないっスけど、俺はあまりに三好さんを知らなさ過ぎだ。


「あ、篤哉さん!!」

「は、はいっス!?」


 突然名前を呼ばれて声が裏返ってしまう。三好さんは真っ直ぐ俺を見て告げた。


「わ、私、頑張りますね!! 篤哉さんに好きになってもらえるように!!」

「あ、はい……」


 三好さんの必死さに押されて返事しかできなかった……。

 俺の返事を聞いて満足したのか、三好さんは保健室から出ていこうとした。


「では、篤哉さん。部活、頑張って下さい」


 そう言って扉から出た彼女の手を俺は反射的に掴んで「待って!!」と声を掛ける。

 彼女は頬を赤らめて振り返る。それを見て俺は緊張で震える声で三好さんに言う。あーもう、心臓バクバクいってるし、手に汗かいてきた。


「あ、あの!! 友達になってくれないっスか? 三好さんの事、もっと知りたいっス」

「………………は、はい」


 彼女が頷くのを見て安心した俺は三好さんの頭を撫でた。


「うん、じゃあ、また明日っス。部活戻るっスね」

「は、ははははい……!! また明日!!」


 彼女に笑いかけて俺は部活に戻る為に保健室を後にした。

 顔の熱が上がる。熱い。心臓が苦しいくらいに鳴り響く。だけど、その音が心地よく感じる。

 この感情は何だろうか。


 その答えが分かるのはまだまだ先のお話。

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青春駆け抜けボーイズ! 煌烙 @kourakukaki777

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