ラッキーハッピーハウスの死闘3
静寂に包まれた小屋に足を踏み入れると木の床板がミシッと大きな音を立てた。背筋が冷えたが罠が仕掛けられていたりはしなかった。
中は薄暗く、硝煙とタバコの臭いがこびりついている。店内は虚無しか入っていない棚がいくつかと、正面奥にバーカウンターがあるだけで他にも何もない。あまりにも殺風景で、店として機能しているとは考えられない。つまり店ではないのだろう。ハズレだ。
そう結論づけ、小屋を後にしようとしたとき、
「おや。今日は客が多い日だねぇ。いらっしゃい」
バーカウンターの向こうに咥えタバコの禿げた片目の老人が立っていた。いつからそこにいたのだろうか。
「あ、ああ。……ここは店なのか?」
「そうだよ。ワシの店だよ。色々置いている雑貨屋ってところだね。お客さんは何が望みだい?」
雑貨屋というには何もなく、胡散臭いことこの上ない。盗品でも売っているのだろうか。
「車用燃料が欲しいんだけど置いてないか?さっきここにいた男が持ってたのを見たんだけど。種類の希望はない」
「車用燃料ね。もちろん。うちは何でもあるよ。ゲッゲッゲ」老人は何が面白いのか耳障りな笑い声をあげた。
「ああ、安心しなさい。商品は奥で厳重に保管してある」
と俺の心を見透かすように言った。なるほど、強盗対策という事だ。こんな辺鄙なところでも……いや、辺鄙だからこそということか。先ほどの銃声は強盗対策だったのだろうか。
「ほら、その紙にお目当てのものとお客さんのサインを書いてくれるかな」
と長いこと放置されていたような茶色の紙と高そうな万年筆をカウンターの上に置いた。右下にサインを入れる欄が書かれているだけの。
「ちなみにいくらだい?」
「値段は……いくらだったかな。忘れてしまったが、非常にリーズナブルな価格だったと約束しよう。記入を終えたら確認ついでに一緒に取りに行ってもらえるかな?」
「ああ、わかった」
俺はサイン欄に『8・0・8』とサインを入れ、その上に車用燃料と書いた。量を書こうとしたところで、ヒートに聞くのを忘れていたことに気づいた。まあ、どうとでもなるだろう。
「これでいいか? 量は後で確認するからさ」
老人は紙を受け取りざっと目を通してうなずいた。
「よろしい。──ところでお客さん、銃の類はここに置いていかないといけない決まりなのだが。火"器"厳禁ってね」
「銃は持ってないが、護身用の鉄パイプがここに。これは問題はないか?」
ただの鉄パイプではないことは当たり前だが黙っておく。
老人は片目で俺をジロジロとみて、
「結構。実際は銃なんて持っていたところで意味はないがね。それでは着いてきなさい。お客さんは運がいい。すでに先客がいるからすぐに始められる」
「え?始めるって?」
老人は俺の問いに答えることなく、カウンター裏からつながっている扉の向こうへ消えた。
俺は一人肩をすくめ、老人の後を追った。
扉の先は四畳半ほどの小部屋で、地下へと続く階段がつながっていた。
その先から、例の臭いが濃く漂ってきていた。手が無意識に棒ガンの位置を確かめていた。第六感が信号を発している。
長くない階段を降りて、石畳の短い廊下を進み、開け放たれた扉の中へ入った。
そこには奇妙な部屋が広がっていた。
まず手前、部屋の中央にやけに大きな木製の丸机と丸椅子が二脚。片方の椅子に座っている赤いバンダナを頭に巻いたタンクトップの男が俺を静かに見ている。打ちっぱなしコンクリート壁のいたるところにある焦げた跡は古いのもあれば新しいのもある。
部屋の奥には一枚の大きなガラス窓が大型店のディスプレイのように部屋を区切っている。ガラス窓の向こうには水や食料、衣服や衣料品がずらっと棚に並んでいた。どれも盗品などではなく新品に見える。
「やあやあ来たね。さ、座って座って。あまり待たせちゃ悪いからね」
老人はガラス窓の前にあるDJブースのような機械をいじっている。
とりあえず言われた通りバンダナ男の向かいに座った。バンダナは俺の顔をジロリと見たが何も言わなかった。
「よお」と俺は言った。
「……よお」とバンダナはかえしてきた。
「あんたは?」
「そっちと一緒さ。欲しいモノが手に入るって聞いてきたんだろ?」
俺はうなずいた「車用燃料が欲しくてな。それで、一体何が始まるんだ?」
「今にわかる」とバンダナは「どうなっても俺を恨むなよ。俺もあんたを恨まん」
「ああ?」
それはどういうことだと聞こうとしたその時、でかい音と共に地面が揺れた。
「ああ?」
俺達が座っている空間と老人の周りを分けるように、床からガラス窓が出てきて、あっという間に天井に達した。
さらにはこちら側の部屋の四方に、天井からスピーカーとカメラ、物騒なセントリータレットが降りてきた。
「は?」
『待たせたね、お客さんたち。こんな短時間に"4"人もお客さんが来たのは初めてから準備に手間を取ってしまった。許してくれ』
スピーカーから発せられた老人の声が地下空間ないを反響して耳に痛い。
「おい、これはなんだ。一体何が始まるのかいい加減説明してくれないか」
ただの罠ならとっくに殺られている。だから何か目的が合って俺をここまで誘い込んだのだろう。
俺はさりげなさを装いつつ、万が一に備えて(もはや十が一レベルかもしれないが)ベルトの棒ガンをいつでもつかめる姿勢を作った。
『もちろん、もちろん。安心してくれたまえ。このタレットはただの保険だ。いまだかつて使われたことは数回しかない』
「イカレ野郎め」バンダナが言った。
『さて。先に来ていたお客さんは知っているだろうが、改めて説明をさせてもらおう。少々長いからよく聞いてくれたまへ』
老人がそう言い終わると機械音が鳴り響いた。
天井が開き、何かがゆっくりと降りてくる。それはヘルスパイダーを想起させる10本指の緒方マジックアームで、丸机の上に三本の棒状の物を置いた。それは銃身の長さが違う三本の銃だった。
『お客さんたちには、そこの特注の散弾銃を使ったゲームをしてもらおう』
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