ラッキーハッピーハウスの死闘1
《YoYoYo!待たせたなお前ら。『LA・バックショット・ラジオ』の時間だ。今日も長ったらしく退屈な前口上は無し。さっそくリリースされたばかりの最高にホットでクールな新曲達を流していくから耳かっぽじって聴いてくれ──》
ガンッ!
クールなサックスのメロディが流れると同時に、愛車の左側面に追いはぎ野郎の黄色いボックスカーが衝突。HELL地獄きっての最大獄道、悪名高き√He66の洗礼のお出ましだ。
「くそっ、曲が聞こえねえじゃねえか」
二回目の突撃をいなして、逆に車両を押し込むようにハンドルを左にきる。ボックスカーはスリップ。
「ざまあみろバカ野郎!──へいヒート、ラジオの音量を上げてくれ」
『残ってるバカを何とかしたらね。これ以上わたしの綺麗な肌に傷がつく前に』
「なぁ、そんなこと言わずに頼むよ」
『嫌』
どうやらヒートは──愛車に積まれた専用人格AIで俺の相棒──この状況にご立腹の様。
手動で音量を上げようとしたが、ノブは硬くロックされていて梃子でも動きそうにない。。
「分かった分かった。それじゃあ、自動小火器システムを──」
『故障中よ。誰かさんが一向に直してくれないから』
ヒートの呆れたような口調とともにフロントガラスにARディスプレイが映し出され『故障中……あんたの頭もね』と波打つサイケデリック色の文章とドレッドヘアーの男のデフォルメイラスト──俺を表しているようだ──が表示された。これは相当怒っている。
「わかった、わかったよハニー。LA(ロスト・エンジェルス)に着いたら直すから。もちろんハニーの肌も」
『そうしなさい。どちらにせよ、今わたしにできることはないから、さっさと何とかして頂戴。ほら、また来てるわよ』
後ろに先ほどよりは軽い衝撃。ラジオから流れる曲に一瞬ノイズが入る。
ARディスプレイに360度カメラの映像を出すと、追いはぎ共のボロ車3台が俺を囲もうと動いているのが見えた。
そっちがその気なら乗ってやろうじゃねえか。俺の気持ちを高めるかのように攻撃的な曲調のメロデスが流れ始めた。
右手を助手席に伸ばしてハチの巣ショットガン──拡声器のように先端が広く、無数の銃口がハチの巣のように並んでいるオーダーメイド製。グリップに『エイト・0・エイト』とカッコよく刻み込まれている俺の名が超クールだ──を掴んだ。
「ヒート、どれかが横に並んだら俺の方の窓を下げてくれ」
『オーケィ』
追いはぎ車両の一台が真後ろについたタイミングを見計らい、ブレーキペダルを緊急ロックがかかるまで踏みぬく。
瞬時に四本のタイヤがロック。砂が薄く被ったコンクリートの上を愛車が急減速。車体がスリップしないよう繊細なハンドルさばきで押さえつける。
ガツンッ!後ろのマヌケが衝突。そいつはフロントバンパーを破壊され、蛇行しながらリタイア。
アクセルを全開。左手に黄色いボロ車が並走する形。ベストタイミングで窓が降りる。車内に入り込む細かな砂に対してヒートが文句を言う。
ショットガンを持った右手をハンドルを握った左手の上に乗せ、銃口を窓枠に乗せるようにして安定させる。
「よう、調子はどうだ?」
驚愕の表情を浮かべる間抜けめがけて引き金を引いた。
怒り狂ったヘルバチのように凶悪な散弾がボロ車を容赦なく引きちぎる。
胴体の大半を失った黄色いボロ車はよろよろと酔っ払いのようにコースアウト。道路脇に鎮座していた大岩にぶつかり爆発。スリーアウト(三死)はしないだろうが追ってもこれないだろう。
「残りはどこだ?」
「後方に離れていくわ。逃げたみたいね」
ハチの巣ショットガンを助手席に戻す。すぐに助手席のグローブボックスから触手めいた機械腕が伸びてきて、ショットガンに弾を込める。
「√He66も大した事ねえぜ」
『こんなの序の口でこれからもっとひどい目に合うんだから。今からでも別の道を進んだ方がいいと思うけど?』
「賽は投げられたってな。それに、どんなトラブルでも俺とヒートなら問題ないだろ?」
『はぁ……どうなっても知らないわよ』
ヒートは黙り込み、代わりにラジオの音量が上がった。ソフトなピアノのチルい旋律が車内を満たす。
・・・
・・
・
事故も強盗もモンスターも出ない退屈な走行を続けていると、前方に3つの看板と3つ又に分かれた道が視界に入ってきた。
看板にはそれぞれ、
【ポークチャムSA】【√He66】【マン・ハンター】
と表記されている。
どの道の先も、蜃気楼がかかっていると言えばいいか時空がねじ曲がったように"曖昧"になっている。
これが噂に聞いていたランダム分岐路か。
『残念、外れね。データベースによると、初めの分岐で目的地を引ける確率は0.000001%未満だし妥当だけれど』ヒートが冷たく言う。
「そう簡単に引けるとは期待してないさ」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、中央の道──引き続き√He66を進むことにした。そして、蜃気楼に突っ込んだ。
一瞬の浮遊感を感じ、次の瞬間には同じ風景なのだが何かが違う道を走っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます