運命の出会い3 親と子
翌朝、アベルはダイツに
「うおおお!」
ダイツは魔法で氷のつぶて〈ケラファ・カタン〉を投げつけ、アベルが剣で
「でいやあああ!」
ダイツが投げた六つの氷のつぶては、アベルを狙ったもの以外にも、あえて全く違う所にも投げたが、アベルは
「やるじゃないか」
これにはダイツも素直に感心する。
「じゃ、こいつはどうかな?」
ダイツは氷のつぶて〈ケラファ・カタン〉を
「うわあああ!」
流石に受けきれなかったか、何発かアベルに被弾し、尻もちをついた。
「人族の武器はこんなもんじゃないぞ!」
「わかってる! もう一度だ!」
そう、もうあの時の俺じゃない。あの時シアンお姉ちゃんを守れなかった俺では。
ダイツは再び魔法を唱える。
始めシャクィアに着くまでは全く反応の無いアベルを
「…こいつが母性、いや、父性てやつかな」
ダイツはぽつりと独り言を言った。アベルは順調に育っているぞ、シアン。
「何か言ったか? ダイツ」
「まだワキが
連射する氷の中に
「くそっ、もう一回だ」
実際には緩急つける武器は無いと思うが、これも勉強だと思うんだな。 ダイツは顔に出さずにくっくっと笑った。
「精が出るねえ」
食堂の女主人、アジーナがパンとミルクを持って見物に来た。一時休憩だ。アベルはアジーナの元へ行き、
「ありがとな、おばちゃ…」
アジーナはギロリとアベルを
「お、お母さん」
アジーナは満開のひまわりのような笑顔になり、アベルにパンとミルクを渡す。 おっかねぇ。 アステシアが表情ころころ変わるのは親譲りなのかもしれない。
「いつもすまないな、
ダイツは一週間ほど居ない時がある。 情報集めの
「ああ、アベルの事は任せな。 アステアも
相変わらずの肝っ玉ぶりに
アベルはふと
「そういえば、アステシアは? 朝から見かけないけど」
「丘の所まで使いにやってるよ。 出張サービスってやつさ」
どうりで今日は静かな訳だ。 いつもなら稽古の見物に来ていて、アベルがやられるたびに「きゃあ」やら「ひゃあ」やら悲鳴を上げている。
「そうだ、ダイツ。 昨日アステシアと話した時に思い出したんだけど、あの時、シアン姉さんを助けに行った時、兵士に
くそっ、肝心な所で頭にモヤがかかる。あの男の声が、特徴が、思い出せない。
「ゆっくり思い出せばいいさ」
パンを
「
普段歳を感じさせない美魔女アジーナの顔にやや
だが、アベルにはアベルのやることがある。 シアンお姉ちゃんの仇。ダイツによれば、村には誰も残っていなかったと言っていたが、俺はうっすら覚えている。
意識が無くなる直前、あいつは確かに笑っていた。あいつは必ず生きている。 よく分からない事だらけだが、何かしらの力であいつはシアンお姉ちゃんを連れて消えたんだ。
必ず見つけ出して、あいつを殺す。 あいつを殺して、その後は、そのあとは――
その後は殺してから考えたらいいか。 考えるのは苦手な俺と違う、ダイツやヘカテが良いようにしてくれるはずだ。
アベルは再び強く心に
□
時間は少し戻り、アステシアが母アジーナの使いで、食事の入ったバスケットを持って、依頼主に届けに行く途中。
シャクィアの町には町の防災の
バキっと音がして、アステシアは立ち止まった。
ドグシャッ、ずでーんごろごろ。 まさにそんな
「あ、あのっ、大丈夫ですか?」
音からして、首の骨折れてそうなほど派手に落ちてきたけど、大丈夫なのかな? グロいのは苦手なんだけど、でも心配だし⋯
「いーやはや、まさか木が折れるとは、この世界は、実にっ、不運にっ、満ちてますねぇー」
男の人はスパッと起き上がりこちらを向いた。 演劇の人なのかな? まあとりあえずは大丈夫みたいだけど。 にこやかな笑顔で言っているけど、目は
「やぁれやれ、おかげで助かりました。
男の人はまるで舞台俳優が最後に観客にお辞儀するかのように、
「わっ、私はなにもっ」
アステシアも男に負けないくらい、体の前に腕を突き出して、手を激しく振った。
「いーえいえ、貴女がここを通らなければっ、誰にも気付かれずにぃ
男の人は目元にハンカチを当て、泣いている演技をしている。 そんな、
となると、少し気になる事がある。
「あのぉー、この近くの人、なんですか?」
白衣に双眼鏡を首から下げている男の人。 軍の関係者には見えないし、そもそも軍の関係者なら、なんで木に登っていたんだって事になるし、当然、農家には見えない。 残るは世捨て人か、まさか不審者っ!? いやいや、普通に演劇の練習している俳優さんかもしれないし。 うーん。
「ああ、コレですか」
男の人は首から下げた双眼鏡を手に取った。 気になるのはそこじゃ無かったんだけど、それも気にはなってたし、ついでに聞いておこう。
「ちょっと、こうやって町の方を
トリ? トリって鳥の事だよね。
「そのようなものです」
うーん、
「じ、じゃあ私はこれで。 一応お医者さんに見てもらったほうがいいと思いますよ」
特にアタマを。
「えぇえ、貴女もお困りの事が有りましたら、お声をかけて下さい。 そこで働いていますので、
男の人がそこと指さしたのは、砦の方だった。
「もしかして、軍の関係者の
かなり意外だったので、変な声でちゃった。
「あの、お父さん、コイオス・ディオーンを知りませんかっ?」
お父さんは四年前、ちょうどアベル達が家に来た後ぐらいから、連絡が取れていない。 そのせいか、お母さんは普段はいつもと変わらないが、時々
「なんでもいいんです。 もし、知っている事があれば教えてください!」
通常、軍関係者の居場所、所属、任務など軍の
「そうですねぇ、助けて頂いた恩もありますしぃ。 コイオス・ディオーン、コイオス···、あぁ、思い出しましたよぉ」
やった、これでようやくお父さんの手がかりが手に入る! お母さんも安心するだろう。
「あれは、四年くらい前でしたねぇ。 とある魔族の村に
アステシアは
「その時に、その、大変言いにくいのですが、彼は、ボクをかばって、ああ、なんという悲劇でしょう!… お気の毒です。彼はまさに英雄でした」
そんな、まさかそんな。 胸の奥が
「で、でもっ、それだと死亡通知が
「非常に重要で特別な秘密の任務だったのです。
じゃあ、お父さんは本当に…
「大変申し訳ないのですが、このことは誰にも秘密でお願いしますよお。
「その、魔族の村の場所って…」
四年前、魔族の村。 アベルが北の魔族の村から来たのも四年前。 ただの偶然だ。 そうに違いない。
「それは、さすがに、お教えできませーん。 ボクにも
「そうですか…」
身体中の力が抜けて立っているのも
「いろいろ教えてもらって、ありがとうございました」
「お役に立てたよぅで、なによりの
お父さんは本当に死んだのかな? それももしかしたら···、いやいや、アベルの話とも
そういえば、あの男の人の名前、聞くの忘れたな。
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