運命の出会い2 その後の話
あの日の事、シアン姉さんの事。
あの日、シアン姉ちゃんが倒れた後、視界が真っ白になり意識を失った。 そのせいか、村の出来事や、その後どうやって港町『シャクィア』に来たのかハッキリと覚えていない。 だから正確にはダイツから聞いた話になる。 自分の事なのに他から聞いた話とは奇妙な気分だ。
□
村を
ダイツは
ダイツはアベルを抱え上げ、避難している森まで行こうとした。 が、他の村の住民も安全と判断したのか、ゆっくりと瓦礫のふもとまで戻って来ている様だった。
生き残ったのは、ダイツとアベルを含めても十名ほどだった。 皆、暗く打ちひしがれていた。 無理も無い。 誰がこの
集団、というには少なすぎる中に小さな影、ヘカテがいた。 ヘカテの両親も行方不明だが、泣かずによく
「アベルは――、良かった、アベルも無事だったんだね」
悲しみを隠すようにヘカテはダイツに話しかけた。
「ああ、そのようだ。 アベルめ、こんな状況だってのに、よく寝てやがる」
ダイツもこれからの不安を
「ふふ、いい寝顔ね」
ヘカテはアベルの顔を指でつついた。
「…これからどうなるのかな?」
ヘカテはふと不安を
「私、皆のお墓作っててあげたいな」
悲しみに
「ああ、そうだな。 皆を集めて、ひとまず使える物を探そう」
こうして、約一日がかりで村の
――夜遅く、ヘカテは両親の墓の前で声を殺して泣いていた。
ダイツはそれを遠くから見守っていた。ヘカテが誰も不安にさせまいと見られないように泣いているのだ。その
やはり、調べなくては。
□
「俺は南西の港町『シャクィア』に向かう」
翌朝、村の
皆は互いの顔を見て、思い思いの感情と自身の今後について話し合った。 ⋯結果この村にほとんどの者は残るようだ。
そんな中へカテは、
「どうして『シャクィア』なの? いちおう人族の土地だし危なくないの?」
「あの場所は人族と魔族の国境近くで、
それに、と付け加える。 あの場所はシアンがアベルを連れて行きたがっていた場所だ。 魔族と人族の現実、 そして、魔と人が手を取り世界平和の、シアンの言葉を借りるなら『超仲良し計画』に必要な事を教える
「ヘカテはどうする? 一緒についてくるか?」
ヘカテはゆっくりと首を横に振った。
「お父さんとお母さん、シアン先生、探したい。 それに他の
子どもなのに、周りの
もしかしたら
□
シャクィアに向かう一週間、アベルは一度も目を覚ますことは無かった。
アベルの事、あの日何を見たのか、シアンと兵士達はどこに行ったのか、色々聞きたかったのだが、アベルは、「ああ」や「うう」としか言わなかった。
ダイツは医者に見せるべきか悩んだが、アベルはダイツの後を歩き、食事も取れているので、ひとまずは目的地に向かう事にした。
シャクィアに着いたのは日も
「らっしゃい、おや、その子
ダイツ達を迎えたのは気の強そうな女主人の様だった。
「ちと、旅をしててな。 今晩の宿を探しているんだが、どこもいっぱいでね。どこか泊まれる所はないか? 」
女主人はダイツとアベルを何度も交互に見た。 まあ気持ちはわかる。 トカゲ男と人族の組み合わせはこの町でも珍しいらしい。 おおかた、
「…宿ならここを使うといいさ。 アステア! この方達に奥の部屋を案内してやんな」
はーい、と返事をしたのはアベルと同じか少し上くらいの人族の少女だった。人混みの中をスルスルと器用に抜けて来た少女は、アベルの目をじーっと見つめて、
「こっちよ、きて」
と、にこっと花が咲いたように笑い、アベルの手を引っ張り奥へ消えていった。女主人は水の入ったグラスをテーブルに置いて、
「あんた達、親子、には見えないね。 どこから来たんだい?」
まだ怪しんでいるようだ。
「北の方から、ちょっと、ね。 あの子は親友の子なんだ」
「ふーん、往来の多いこの町じゃあ、訳アリも多いがね。 この町にしばらく滞在するんなら、好きなだけここに居りゃいいさ。 だがあの子に危険な事させようってんなら、タダじゃおかないよ」
肝っ玉な女主人だ。 それに情報の集まりやすい食堂にしばらく滞在出来るのはこちらとしては願ったり叶ったりだ。
「
少し意地悪な事を言ってみた。 人を始めから信用するほど甘くは無い。 優しいふりして、実は
「他所だろうとなんだろうと関係あるかい。 子どもは子どもさ。 おとなが育て守るのが
悪い人では無いらしい。 まだ完全に信用した訳では無いが。 それでもむやみやたらに疑ってたらキリがない。 どこかで折り目をつけるしかないのだ。
「あいつを、アベルを危険な目に合わせるつもりはない。 だが、あいつを一人前の男にする。 俺が親友と約束した。 勝手にだがな」
「その約束、見届けようじゃないか」
こうして、女主人アジーナと娘アステシア親子の食堂に住むことになった。 アベルはアステシアと交流する内に徐々に元のように話せるようになり、ダイツは程なく誤解がとけた。 アジーナはダイツを監視するつもりで泊めたらしい。 肝っ玉を超えて
ダイツは今ではアジーナや食堂の常連客とバッカシュを飲み干す飲んだくれ仲間になったとさ。
まさかそれが四年も続くとは思わなかったが。
□
そして現在。 こんな話でも話せば、長い坂道もあっという間に終わった。 アステシアが聞いてくれたおかげと言えなくもないかも、しれない。
坂道の先にある食堂の
「おかえり、二人ともご苦労さん」
女主人アジーナはよく
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