プロローグ3 大好き
村の家や田畑、あらゆるモノが炎に焼かれる中、シアンは村の広場で
侵入者はまず船から村を
初め、侵入者はシアンにも〈ライフル〉を向けたが、シアンは風魔法〈ルーアフ〉で弾き返し、一度に八人を返り討ちにした。〈ライフル〉では太刀打ち出来ないと判断したのか、次は五人の
持っている武器に数と統制の取れた動きからして、どこかの
一人一人は
「いーやはや、
この場では不似合いなまでに、まるで
「あなたが隊長? とてもそうは見えないけど」
男はまたしても大げさな
「はじめまして、ですかね。『
こちらの質問に答える気はないらしい。この男、一見強そうには見えないが、そこらの兵士より
「宝玉? なんの事かな?」
男は悲しそうな顔をして、自身の胸に手を置き、
「嫌ですねぇ、とぼけないで下さいよぉー。
この男の
「ですから、渡して頂きたいのです。
男が一歩、また一歩と近づいてくる。そうだ、もっと来い。野蛮人共にくれてやる物など元より何一つ無い。まずはこの男を人質にして、アベル達と合流。その後こいつらの知っている事を全て吐かせてから、私とアベルの
剣の
「シアンお姉ちゃん!!」
シアンと白衣の男のちょうど
「アベル! 来ちゃだめ――」
パァン!
一発の
――当たったのは、――私じゃない、
「アベルぅぅううーー!!!」
全速力でアベルに走り寄る。アベルは電池の切れた人形のようにゆっくりと、前のめりに倒れ込んでいく。遅い!こんなにも体が重く感じたのは初めてだ。もっと、もっと早く動け!
アベルの体が地面に倒れる直前、ギリギリの所で支える事に成功した。
「アベル! アベル!! しっかりして、死なないで! お姉ちゃんを
白衣の男は、またも大げさな手振りで、
「はーはっあー、なんっっという悲劇でしょう!!
⋯こいつは何をイッテヤガル?
「⋯ス…コロス、絶対コロス、完全ニコロス、今スグ、塵モ残サズ殺してやる!!!!」
「あはーっはっはぁー!
何がおかしいのか、男は手を叩き、腹を抱えて笑っている。お前はもう一秒たりとも生かしたくない。目の前の男に全身全力の魔力を向け、大地が
「おおっと、良いのですか?貴女の大宝玉を使えば、今すぐならその子どもを救えるでしょう。しかーしっ、ボクに魔力を使えば、その子どもを助ける時間はありませんよー?」
男はアベルにピストルを向けながら言った。刺し
魔法をこの男に放てば、同時に男はピストルを撃つ、それだけの自信があるのだろう。そうなれば風魔法で弾を防ぐ時間はない。
大宝玉を使えば、アベルを救える。
シアンは自身の胸を自らの手で
「大好き。私の大事なアベル⋯」
アベルの体は
□
燃える村の中、誰かの悲鳴とメキメキと建物が
そんな中アベルは、村の入口でただぽつんと立ち尽くしていた。俺は何をしていたんだっけ。
目の前で村を焼いていた男に氷の槍が勢いよく突き刺さり、男は動かなくなった。アベルはそれをただ、ぼおっと
「アベル!無事だったか!」
さっき氷の槍を放ったトカゲ男、ダイツは駆け寄って言った。
「アベル、血だらけじゃないか。怪我は⋯無いようだな?」
ダイツは不思議そうにしながらもベタベタとアベルの体を
「ヘカテも無事だ。アベル、お前も安全な所まで移動するぞ。動けるか?」
その言葉で動けるという当たり前の事を思い出した。そして脳を動かし始める。俺は、なんで血だらけなんだっけ?たしか、白衣の男に撃たれて。なんで撃たれた?男たちと、シアン姉ちゃんが戦っていて⋯
「そうだ、お姉ちゃんが危ない!」
そうだ、なんでこんな所で
「あっ、おい、どこに⋯⋯」
ダイツの言葉が届くより先にアベルは走り出した。俺の傷を治すためにシアン姉ちゃんは自らの胸を
そんなアベルは気付いていない。元々頭を使うより体を使う方が得意ではあったが、それでも
□
走り
あの男、知っている。シアン姉ちゃんと向かい合っていた、そして俺を撃った奴だ。だが、シアン姉ちゃんの姿が見えないのは何故だ?姉ちゃんは剣も魔法も村一番の使い手だ。いくら怪我をしているとはいえ、姉ちゃんが簡単にやられるとは思えない。
確かめなくては。幸い奴らはこちらに気付いていない。そっと、近くに落ちていた剣を拾い、家へと
だが、上った先に見えたのは、想像しなかった光景。いや、予想はしていたが、理解したくなかった光景が目の中に入り込んでくる。
多くの兵士。その中心にいたのは背中を複数の剣で突き刺され、倒れている
「お姉ちゃん!!!」
奇襲を捨て、声を振り上げながら、囲んでいる兵士に虫を追い払うように剣を振り、シアンに駆け寄る。
「なん⋯で、⋯⋯ここに⋯⋯」
シアンは苦しそうに息を吐きながら、語りかけた。まだ息があった事に少し
「やあ、来てくれると信じていましたよ」
兵士の
「どう⋯して⋯」
対するシアンは声を振り絞りながら
「少年の代わりにお答えしましょう。とはいえ、簡単な事です。
大根役者でももう少しまともだろう、くどい芝居じみた口調で白衣の男は語った。
さっきから話に出ている大宝玉ってなんの事だ?シアン姉ちゃんは知っているのか?それより姉ちゃんを
こちらが黙っているのを勘違いしたのか、「大宝玉の事は言ってませんでしたかね?」など見当違いの事をぶつぶつと何か言っている。
「にげ⋯⋯て⋯⋯アベル」
シアン姉ちゃんの悲痛な声がアベルの後ろから聞こえる。逃げるにしてもシアン姉ちゃんを残して逃げられるものか。
「おおっと、
すっと、ピストルをアベルに向ける。だが、少し考えてピストルを下ろした。白衣の男は隣の男に向かって、
「隊長さん、この少年を殺して下さい。ええ、あなたが」
隊長と呼ばれた男は突然の指名に
「し、しかし、相手はまだ子どもです。しかも
「関係ありませーん。今まで
白衣の男は説得する気があるのか無いのか、明るくおどけた口ぶりで言った。
隊長の男は少し迷ったあげく、自分のライフルをアベルに向けた。
どうする?切り込むには少し遠い。弾を避ければ、姉シアンに当たる。どうすれば⋯
「君にも理由をさしあげましょう」
白衣の男はそう言うと、ピストルをシアンに向け放った。
「うっっ」
小さな
「お姉ちゃん! っちっくしょおおおおお!!!!」
アベルは
「うおおぉぉおお!」
だが、剣は男に届かず、隊長の男にライフルで受けられた。
「ちぃっ」
舌打ちをして、男達から飛び
「思ったより、まだまだ冷静なようですねぇ」
白衣の男は再びピストルをシアンに向ける。
アベルも銃口から姉を守るように、体を入れた。
ふと、服を引っ張られる感触がした。
「にげて⋯アベル⋯にげて⋯」
シアン姉ちゃんは無数の剣が刺さった体を起こし、血を吐きながらこちらを
「ああ、一緒に逃げよう。 お姉ちゃん。 もう少しだけ待ってて」
あの綺麗な肌と赤い髪は血と泥で汚れて、見る影もない。仕方ないなあ、今度一緒にお風呂入ってあげるから、洗いっこしよう。そして、誕生日を一緒に
「アベル⋯、1人でにげ⋯て⋯、あなたなら⋯⋯できる」
「何言ってるんだ、こんな時に。 笑えねえって」
シアンは、お姉ちゃんは、息子を、弟を、愛する家族を逃がす為に、とびきりの笑顔で最期の魔法をかけた。
「大丈夫、大丈夫よ、お姉ちゃん、強いから、アベルが⋯、にげたら⋯おねえちゃんも⋯にげ⋯るから⋯」
姉シアンの手が地面に落ちた。
「シアンお姉ちゃん!」
何が、何が大丈夫だ。いつも自分を犠牲にして、分からないようにひとりで笑って。ひとりにしないでって言ったくせに、魔族一寂しがり屋なくせに、先にいって弟をひとりにして、これじゃあ意味無いじゃないか。
ああ、胸の奥底から、熱く黒いモノが込み上げてくる。ソレはやがて身体中から
「うがああああああぁぁぁぁァ”ァ”ァ”ァ”」
目の
頭がチリチリとケーブルが焼け焦げるような
「すべて! すべて消えて無くなれえ!!!」
今言ったのは、自分だろうか。どうでもいいか。シアンお姉ちゃんがいない世界なんて、どうでも。
アベルから溢れたモノは一筋の光となった。それは天空まで伸び、円柱状に広がり、やがて村全体を
声が、聞こえる。
「アベル⋯」
優しい、暖かな声だ⋯。
「アベル、大好き。」
ずっとずっと包まれていたい声。
「僕も、大好きだよ、シアンお姉ちゃん」
声に精一杯の愛を伝える。
「元気でね」
プロローグ 終
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