カウントダウン(詳細不明)
西条さんはある年の瀬、アイドルのカウントダウン番組を見ながら、帰省していたお姉さんと両親と共に年越しを待っていた。
家族で炬燵を囲みながら会話をしつつ、普段は日付が変わるまで起きていることが少なかったせいか、西条さんは時折うとうとと微睡みがちだった。
時々意識を飛ばしながらも、年越しの瞬間を逃さないため、眠気覚ましにひたすら蜜柑の皮を剥いていたそうだ。
そうこうしているうちに、ついにその瞬間が訪れる。
テレビの中のアイドルが、会場の観客とともに、新年へのカウントダウンを始める。
半分ほど寝ていた西条さんもお姉さんに起こされ、アイドルに合わせて二人で数字を数えた。
「5、4、3、2」
いち、と言ったその時。
お姉さんの顔が、目の前でぐにゃりと崩れた。
まるで渦を巻くように、顔のパーツごと内側にねじれたのだ。
西条さんは悲鳴をあげることも出来ず固まった。
異様な雰囲気に、思わず周りを見渡す。
家の中がおかしかった。
炬燵を囲む家族も、テレビに映ったアイドルも、お姉さんと同じように顔が崩れていて、その全員がこちらにじっと視線を向けているのだ。
さっきまでの和やかな会話は途絶え、耳が痛いくらいの静寂が満ちている。
その中で、テレビのテロップが11時59分のままゆっくりと点滅している。
それを見た途端、西条さんは状況の理解が追いつかないままにも関わらず、そうか、と納得したらしい。
ああそうか、失敗したから新しい年がやって来ないのか。
そう思った次の瞬間。
「ハッピーニューイヤー!」と弾けるような歓声が上がった。
画面越しのライブ会場に金テープがばらまかれ、お姉さんが嬉しそうにハイタッチしてくる。いつのまにか、年を越していた。
ぽかんとする西条さんに、お姉さんは「どうしたの?」と尋ねた。
その顔に崩れは一切なかった。
あれが何だったのか、そして何を失敗したから新しい年を迎えられなかったと自分が思ったのか。
未だに分からない、と西条さんは語る。
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