第5話 電車でイチャついてはいけません
【場所 駅のホーム】
電車のアナウンスの音。
雑踏音の中、二人が駅のホームドアの前まで歩く音。
「今日も楽しかったね……! 後輩くん」
「今日の悪いコト……放課後に寄り道をする。無事にクリアです。テレッテレー、馬締先輩の悪い子レベルが上がりました。えへへ……」
「後輩くんのおすすめのラーメン屋……とっても美味しかった。ゲームセンターにも生まれて初めて入ったし……ふふ、後輩くん、クレーンゲームがあんなに得意だなんてしらなかったよ」
「後輩くんに取ってもらったこの猫ちゃんのぬいぐるみ……大切にするから……!」
「え……? 大げさ……? ううん、そんなことないよ。後輩くんとの大切な思い出がカタチになったモノだもん。わたしの一生モノの宝物です」
「後輩くんのおかげで、また一つ、初めてが経験できたよ。ありがとね?」
電車の到着ベル。
『間もなく電車が参ります。黄色い線までお下がりください』というアナウンス音。
「あ……もうすぐ電車がくるみたいだね」
電車の到着音。
電車のドアが開く音。
「……わ、凄い人……乗れるかな……」
沢山の人が乗降車する雑踏音。
「きゃ……押されて……! こ、後輩くん……!」
人波に押される音。
ギュッと二人が触れ合う衣擦れの音。
「……ひゃっ」
電車のドアが閉まる音。
電車が出発する音。
二人は満員電車の中もみくちゃにされて抱きしめ合うような格好になってしまう。
以降、ガタンゴトンという電車の走行音がバックに響く。
「……」
「……こ、後輩くん……」
「……身体が……ギュッと……近づいて……」
「こんなの……ま、まるで……だ、抱きしめ……」
「っ……」
「……ううん、イヤ……じゃない……よ」
「……わかってる。後輩くん、わたしが押しつぶされないように……庇ってくれてる……よね?」
「あはは、だから……不可抗力だよ。気にしないで?」
「むしろ……ありがと。安心する」//囁くように
「……」
「……後輩くん……あったかいね」
「後輩くんの身体……すごくあったかいよ。それに……なんだかいい匂いがする」
「もしかして、香水つけてる……? 違う?」
「そっか……じゃあこの匂いなんだろ。スンスン……ふふ、いい匂い」
「なんだか……とっても安心する香り……」
「……」*10秒くらい先輩の息づかい。
「ね……後輩くん……お願いが……あります……悪いコのお願いです……」
「……」
「わたし……もっと後輩くんに近付きたい」
「ちょっとだけ……手を下げて?」
「……そう。それでちょうど……後輩くんの胸の辺りにわたしの顔がくるよ」
先輩が顔をあなたの胸元にすりつける衣擦れの音。
「えへへ……スリスリ。うん、こんな感じ」
「……」*5秒くらい先輩の息づかい。
「……ねえ、後輩くん。もしかして……これも悪いコトなのかな……」
「ここは電車なのに……後輩くんとわたしは……付き合ってるわけじゃないのに……こんな……吐息が感じれるくらいに近づいて……」
「わたしは……後輩くんの香りをかいで……」
「……とってもドキドキして……」
「ちょっと……気持ち良くて……」
「ごめん……後輩くん。わたし……変だ……」
「変な気持ちになってる……」
「こんなの……周りの人にバレたら……どうしよう……」
あなたが先輩を強く抱き寄せて、ギュッと衣擦れの音。
「あっ」
「ふふっ、抱きしめられちゃった」
「大丈夫、全然イヤじゃないよ」
「むしろ……」
「ふふ、これで……後輩くんも……共犯だね……」
「悪い子」
「……後輩くん、ドキドキしてる。心臓の音……はやいよ?」
「わたしのも……早いんだ。破裂しそうなくらい、ドキドキしてる」
「……沢山の人に囲まれているはずなのに……後輩くんと二人きりみたい……」
「……後輩くんと一緒なら……満員電車も悪くないかも」
「……後輩くんはどう?」
「そっか……後輩くんも同じ気持ちなんだね……よかった……嬉しい」
「……」
「……ね、後輩くん」
「わたし……後輩くんのこと……」
先輩が何かを言いかけたタイミングで次の駅に到着するアナウンス。
「……あ、もう駅に到着しちゃうね」
「名残惜しいけど……降りる準備しようか……?」
「……え?」
「……このまま、終点まで?」
「……ふふっ」
「それ……いいね」
「終点の駅はね……海が近いらしいよ……」
「いっちゃおうか、二人で」
「夜の海」
電車が止まる音。
扉が開く音。
多くの人が乗り降りする音。
扉が閉まる音。
電車が再び走り出す音。
「……よかった、少しは空いたみたい。もう少ししたら席も空くかな……」
「……」
「……ね、後輩くん。」
「……ありがと」
「……」
電車の走行音を5秒程度。その後フェードアウト。
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