第3話 授業をサボってはいけません

【場所 保健室前】


「……後輩くん。こっち」


 二人の足音。

 そっと扉を開ける音。


「……うん、大丈夫。やっぱり先生いないよ……!」


「……ささっ、誰にも見られないうちに!」


 そそくさと部屋の中に入る足音。

 扉を閉める音。


「……ふぅ」


「あードキドキした……!」


「後輩くん、無事に保健室への侵入完了だよ……!」


「ありがとうね、また付き合ってもらって」


「むふふ……今日の悪いことはすごいよ……授業をサボって……そのうえ保健室に忍び込んじゃうなんて……」


「わたし、どんどん悪い子になってる……!」


「え? 授業サボるのはわかりますけど……なんでわざわざ保健室なんですか?」


「……えへへ、後輩くん。よくぞ聞いてくれました。といっても大した理由じゃないんだけどね……」


「えっと……前に体育の授業でケガをして、保健室に連れて行かれて……そのまま授業をお休みしたことがあるの」


「そのときにね、すっごくワクワクしたんだ。別に授業をサボったわけじゃないんだけど……とっても自分が悪い子になった気がして……一日中胸がドキドキしてたの」


「だから、わたしにとって保健室は憧れの場所なんだ」


「……だから、もしも授業をサボるときは、絶対に保健室に行くって決めてたんだよ!」


「……え? わざわざ先生のいない時間を見計らって忍び込むんじゃなくて、仮病で授業を休んで保健室にいけばもっとカンタンだったんじゃないですか……?」


「……う、うん。もちろん、それも考えたよ?」


「……でも、それだと後輩くんと二人になれないじゃん」//囁くように


「……え? う、ううん! な、なんでもないよ……!」


「とにかく、後輩くん! この時間なら保健の先生も授業でいないから……! 思う存分、保健室を堪能できるよ……!」


「……え? 保健室を堪能って……何すればいいんですか……?」


「……」//先輩、はたと考え込む


「ベッドに寝転ぶ……とか?」


「そういえば、後輩くん。ちょっと疲れてる? 目の下にクマがあるよ?」


「え、ゲームのやり過ぎで寝不足? なるほど、つまり後輩くんは疲れているわけだね」


「……うん」


「思いついたよ、後輩くん!」


「今からわたしが、後輩くんにマッサージをしてあげるよ!」


「ううん、遠慮しないでよ。だって後輩くんには普段からお世話になりっぱなしだもん。日頃の恩を返さなきゃ」


「それにわたし……自慢じゃないけどマッサージには少し自信があるんだ。よくお父さんとお母さんにしてあげてるから……ふふん、評価は上々だよ?」


「だからね、遠慮しないで?」


「やたっ!」 


 シャッとベッドのカーテンを開く音。


「じゃ、後輩くん、そこのベッドに横になってよ」


 あなたがベッドのうえに腰掛ける音。


「はい、じゃあうつ伏せになって……うん、いいこいいこ」


「ちょっと失礼します」


 ギュムッとあなたの上に先輩が馬乗りになる音。


「大丈夫? 後輩くん。苦しかったりしない?」


「オッケー。じゃあ、始めるね?」


「よいしょ……」


「わっ……後輩くん、けっこう凝ってるね~」


 マッサージ中の先輩の息遣い(10秒くらい)


「どう後輩くん。力加減はこのくらいで大丈夫?」


「……うん、ならよかった」


 マッサージ中の先輩の息遣い(10秒くらい)


「うん、いい感じにほぐれてきた気がする」


「どう? 後輩くん、気持ちいい?」


「ふふ、よかった!」


「じゃ、次はね……仰向けになって……?」


 モゾッとあなたが仰向けになる音。


「……あっ」


「え、えへへ、仰向けだとなんか見つめ合う感じでちょっと恥ずかしいね」


「よかったら、目を閉じててほしいな。うん、オッケー」


「じゃあ次はね、お耳のマッサージだよ」


「前にテレビで見たんだけどね、耳の周りにはリンパ節やツボが集まっているらしくて。耳をマッサージすれば、全身マッサージと同じくらいの癒やし効果があるんだって」


「後輩くん、イヤホンで音楽聞いてること多いし、ピッタリだと思うんだ」


「というわけで失礼します……ごめんちょっと前の方へ移動するね」


 あなたのうえで先輩がモゾっと移動する音。

 先輩の顔があなたの顔に近づき、声が耳元に響く。


「じゃあ……始めるよ。お耳のマッサージ……まずはお耳の周りから」


 先輩があなたの耳を優しく触る音。


「くすぐったい……? ふふ、ちょっとだけガマンだよ」


 マッサージ中の先輩の息遣い(10秒くらい)


「耳たぶも……ぷにぷに、ぷにぷに……」


「後輩くんの耳たぶ……柔らかいね……」


「ずっと触ってられるよ……」


「ぷにぷに……ぷにぷに……」


 マッサージ中の先輩の息遣い(10秒くらい)


「次はこうやって、耳をギュー」//両手で耳をおおわれる


「ギュー、ギュー」//2,3回繰り返す


「どう? 後輩くん。お耳マッサージを試してみたのは、後輩くんが初めてなんだけど……気持ちいい?」


「……え? あたってます?」


「先輩の……むね……が……」


「……!」


「ご、ごめんね!!」


 ガバッと先輩が移動する音。


「わ、わたしったら……マッサージに夢中になってたから……後輩くんにのしかかっちゃってたみたいで……」


「ごめんね! その……重かったでしょ?」


「え、なんで後輩くんが謝るの? 後輩くんは全然悪くないよ?」


「……それに、後輩くんだったら、胸くらいいくらでも……」//ボソッと呟く


「な、なんでもない! 今のはナシ!」//慌ててごまかす


 休み時間のチャイムの音。


「大変……! もうこんな時間だ!」


「後輩くん! 授業が終わっちゃったみたい! 先生が戻って来ちゃうかも!」


「バレる前に、早く教室に戻ろう! ほらっ、いこ? 後輩くん!」


 シャッとカーテンを開ける音。

 足音。

 ドアを開けしめする音。

 駆け足気味の足音。

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