第2話 屋上に入ってはいけません
【場所 放課後の校舎内。屋上へ続く階段踊り場】
カンカンカン、と先輩が階段を登る音。
「――あ、後輩くん」
カンカンカン、と階段を登るペースが早まる。
「ごめんねー! わたしが言い出しっぺだったのに! 待たせちゃったよね……!?」
「カギを借りてくるのに……ちょっと手間取っちゃってさ……」
チャリンとポケットから鍵束を取り出す音。
「でも見て。ほら、屋上のカギ。バッチリゲットしたよ」
「え……? どうやって手に入れたかって? えっとね、先生に化学の実験の機材を置きたいから、屋上を使わせてくださいっていったんだよ」
「そう、ズバリ嘘をついたんです!」
「ふふ、嘘がバレないかドキドキしちゃった!」
「じゃあ後輩くん。さっそく屋上に出よ?」
屋上のドアまで歩く音。
ドアに鍵を差し込み、ガチャリとドアを開く音。
屋上の手すりまで歩く音。
「うわーいい景色だね。それに風も気持ちいい……」
「空も真っ青で。雲がソフトクリームみたいだ」
「あっ、見てみて後輩くん。あれが駅だよね? わたしたちがいっつも使ってる。あっ、見て、ちょうど電車がきたみたい。ふふっ、ミニチュアみたいで可愛いねっ」
「わたしの家は……あっちの方かな……さすがにここからは見えないか。ねっ、後輩くんの家はどの辺なの……?」
「……? どうしたの後輩くん。ニヤニヤして」
「え……わたしがとっても楽しそうだから……? こっちまで嬉しくなってきました……?」
「えへへ……うん……とっても楽しいよ」
「だって、またひとつ……悪い子になれたから」
「みんなに内緒で、立入禁止の屋上にこっそり忍び込むなんて……とってもイケナイことしてるよね……?」
「こういうの……背徳感っていうのかな……わたしいま、とってもドキドキしてる……!」
「ふふふ、後輩くんも共犯だから。もちろん今日のことは二人だけの秘密だからね?」
「ふんふ〜ん、るんる〜ん」//先輩、上機嫌で鼻歌を口ずさむ。
「……あ、そうだ!」
「ねえねえ、記念に写真撮ろうよ!」
先輩がポケットから携帯を取り出す音。
「ほらほら、後輩くん! わたしの隣!」
「……そのままじゃ写真に見切れちゃうよ。だから、もっと近づいて?」
「うん、そうそう。そんな感じ。……あ、ちょっと待って。前髪直すから……よいしょ……うん、こんな感じかな」
「じゃあちょっとの間そのままー。動かないでね」
「いくよー」
パシャリパシャリとスマホのカメラのシャッター音。
「えーと……うん、よく撮れてる!」
「ほら見て? 後輩くん。空も景色も綺麗に映ってるし…… わたしたちの表情もバッチリだよ! いい感じじゃない?」
「ふふ〜ん、やったね。いい写真がとれたぁ……」
「この写真、後輩くんにも送ってあげるね?」
「あ……そういえば、わたし後輩くんの連絡先知らないや」
「あはは……図書委員で一緒になってから、結構経つけど……連絡先交換してなかったね」
「……じゃあ後輩くん、連絡先……交換しよっか?」
「……」
「うん、これでよし……登録完了……」
「……えへへ、男の子と……はじめて連絡先交換しちゃった」//ささやくような小声で。
「……え? ううん、なんでもないよ!? こっちのハナシ! 気にしないで!」
「写真は今送ったから! 後で確認しておいて!」
先輩はキョロキョロとあせりを誤魔化すように周りを見渡す。
「あ……! ねえねえ後輩くん、あそこにベンチがあるよ? ちょっと座っていこーよ!」
ベンチまで歩く音。
ベンチに座る音。
「鍵を借りるときに先生が言ってたんだけどね……数年前までは屋上は生徒に解放してたんだって。このベンチはきっとその名残だね」
「……屋上でお昼ご飯を食べたり、おしゃべりしたり……青春だよねぇ……あこがれるなぁ……」
「ねえねえ、後輩くんはお昼はお弁当なの……? うんうん、そっか……」
「じゃあさ……もしよかったら、なんだけど……今度のお昼休みさ……屋上で一緒に食べない? お弁当。わたしと後輩くんの二人で」
「……ホント!? いいの!? やったー!」
「あ、そうだ! せっかくだからわたしが後輩くんの分のお弁当作ってあげるね」
「ううん、大丈夫。こう見えても料理は結構得意なんだ? 毎日、家族の分のお弁当、わたしが作ってるんだよ?」
「えっへへ〜、どんなメニューにしようかなぁ。えっと……玉子焼きとたこさんウィンナーは鉄板だよね。ミニトマトとブロッコリーで彩りも加えて……おにぎりがいいかなぁ。それともサンドイッチかなぁ……」
「ねね、後輩くんはご飯派? パン派? どっち? あとさ……好きなおかずも教えてよ!」
「……ふむふむ、なるほど……、オッケー……美味しいお弁当作るから、期待して待ってて?」
「ふふ……楽しみ。細かいことはあとでメールで連絡するね? 約束だからね?」
「ふふ……楽しい予定がまた一つ増えちゃった」
「悪い子になろうって……思いきって後輩くんに誘って、ホントによかったよ」
「ありがとね? 後輩くん!」
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