まじめ先輩は悪い子になりたい
三月菫@リストラダンジョン書籍化
第1話 図書室で飲食をしてはいけません
【場所 学校の図書室】
本を捲る音が図書室に響く。
キンコンカンコンと下校時間を告げる学校のチャイムがなる。
「……あ、もうこんな時間」
パタンと本を閉じる音。
「ふふっ、結局今日も誰も来なかったね」
「んー……、はぁっ」と先輩が背筋を伸ばす。
「後輩くん。お仕事お疲れ様。後片付けして帰ろっか?」
ガタッと椅子を引く音。
引き出しをあけて書類を整理する音。
「それにしても……こう毎日図書室の利用者がいないとさ、後輩くんもヒマだよね?」
「図書委員だからって、ムリして毎日ここに来なくてもいいんだよ? 正直わたし一人でも仕事は回るし……」
「それに後輩くんも……友達と遊んだり、アルバイトしたりさ。図書室でわたしと二人ぼっちより……もっと有効な放課後の過ごし方があるんじゃない?」
「……え? 先輩といる方が楽しい? だから気にしないでください?」
「ぁ……」
「……そ、そっか。そっかそっか……えへへ、楽しい……? わたしといると? えへへ、そう?」
「う、うん。わたしも後輩くんと一緒にいると……楽しい……よ。ありがと……それじゃ、明日もよろしくね、後輩くん」
「えーと、じゃあ、後片付けも終わったから帰ろっか?」
「……ん? どうしたの?」
「……え? 今日はメガネじゃないんですね?」
「あ、うん。前のメガネが壊れちゃって……いい機会だから思いきってコンタクトにしてみたんだ」
「……それに、髪型も変えましたよね?」
「う、うん……美容院でカットもしたけど……」
「もしかして、変……?」
「……」
「……ありがとう。ふふっ、お世辞でも嬉しいよ」
「後輩くんさ……コンタクトにしたのも、髪型を変えたのも……ちゃんと気づいてくれたんだね」
「え、図書室に来た時から気づいてたけど、わたしが仕事モードだったから指摘できなかっただけ?」
「そっか。でも学校でそう言ってくれたのは後輩くんが初めてだよ」
「ありがと、後輩くん」
「……」
「……あのさ、変なこと聞いてもいい?」
「その……後輩くんから見て、わたしって……どんな風に見える?」
「どういう意味ですかって……? えっと、言葉どおりの意味でね……後輩くんから見たわたしの印象を教えてほしいの」
「あ、正直にね! 遠慮はいらないから思ったとおりの印象を教えて!」
「……」
「うんうん……」
「同じ図書委員で……先輩で……本が好きで……」
「物静かで……控えめだけど……やさしくて……いつも一生懸命で……とっても真面目……?」
「あぅ……まじめ……」
「うん……そっか。そうだよね……後輩くんから見ても……やっぱり、マジメ、だよね……」
「……」
「あの……」
「……ぅう」
「あのさ」
「後輩くんにお願いがあります」
「わたし……今後輩くんに言われたように、、いつも真面目とか、優等生とかみんなに言われるんだけど……」
「ほんとはね……」
「ずっと……悪いコに憧れてます……」
「でも、一人じゃそんなことする勇気がなくて……一緒に悪いコトしてくれる人を探してたの」
「後輩くん」
「わたし友達が少ないし……こんなこと頼めるの後輩くんしかいないから……」
「だから……その……もしよかったら……お手伝いしてくれませんか……?」
「……」
「……え? 悪いコトって一体なにをするんですかって……?」
「えっとね、えっとね……」
ゴソゴソと先輩が鞄をまさぐる音。
「はいコレ」
「まずはお菓子。一緒に食べよう!」
「……え? それのどこが悪いことなんですかって?」
「なにいってるの!? ほら、あの張り紙を見て? 図書室では飲食禁止だよ? 先生に見つかったら怒られちゃうよ? お菓子も没収されちゃうよ!? だからわたし達がこれからしようとしていることはとっても悪いことなんだよ!?」
「……後輩くん、なんで笑ってるの?」
「……え? 先輩可愛いです?」
「な……! も、もう、からかわないでよ!」
「……っていうかゴメンね。変なお願いだったよね? あはは……忘れて!」
「……ッ、じゃあ帰ろっか!?」
「……え」
「いいの……?」
「ホントに……? 一緒に悪い子になってくれる……?」
「……ありがと、後輩くん」
「えへへ、それじゃあ改めて……はいお菓子。一緒に食べよ?」
カサカサとクッキーの包装を開ける音。
「はい、どうぞ。後輩くんの分」
「……いただきます」
もぐもぐと先輩がクッキーを食べる音。
「へへへ……クッキー……美味しいね」
「むふふ……図書室でお菓子を食べるなんて……わたし、悪い子になっちゃった……」
「これで……後輩くんも……共犯だよ……」
「えっと……これからよろしくね? 後輩くん……?」
「わたしと一緒に……悪い子になろ?」
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