Episode:10 大切なモノ

「…⁂*≠§∀△。」

と、ワタシはカゲフミ君が寝ている部屋で呟いた。

すると、謎の空間が姿を現した。それは轟音と共に、どんどん広がっていく。

「…何でカゲフミ以外の人がこの暗号を知ってる。たまたま言ったとしても、

それが当たるはずない。誰だ。答えろ。目的があってこの空間を開かせたのか。」

と、その空間の中から声が聞こえてきた。

ワタシは全身ガクガク震えていたけど、後ろを向いたりはしなかった。

「…父親を……救いに来ました…。

この空間は、聖霊都市へと繋がっているんですよね?

そこに父親が、攫われているんです。…なので、放ってはおけないんです!」

それを理由に許可してもらえるワケなんてないと分かっていながら、

ワタシは抵抗しようと、必死だった。

「…それに命を賭けれるか?」

この喋りかけてくる人は、恐らくまだ若い人を、

危ない目に遭わせたくないんだろう。

「…はい。」

と、躊躇ったが返事をした。

「…そうか。なら好きにしろ。その代わり、死んでも責任は取らんぞ?」

「…それでも行きます。」

「―――待って、ミヅキさん!!」

そうカゲフミ君に言われたのは、もうその中に脚を運んだ後だった。


ワタシが身体まで完全に入り切ったのと同時に、その空間は姿を消した。

―――そこは、周りが青く光る霧に囲まれた、森の中だった。


…オレは聖霊都市にある、森の中を歩いていた。

どうやらココは、この地の守り神として霊が潜んでいて、

一度脚を踏み入れたら、二度と戻っては来れない場所らしい。

「…オイ。」

誰だ、と後ろを振り返ってみた。人間だった。

「…ワタシは”白石美月”。オマエからお父さんを取り返しに来た。」

いやいや、もう死んでるって、しぶといなー…。…ッ!!?

後ろから刺され…見えないように、隠して持ってきていたのか…面白いな!!

「…コレは何だと思う?」

そう言って、ビニール袋にあるオマエの父親の、生首を出して言った。

「今ココで、バラバラにしてやってもい———」

顔を強く蹴られた気がした。挑発は成功だな。フッ!!

“Curse of dead”、発動。性別がどうであれ、関係ない———!!

「…アッ……。」

聖霊都市出身の者しか扱えない霊術・”Curse of Dead”は、

白石美月の腹部に、噛みついた。

「……ァァアァァッ!!!」

それによって召喚され、白石美月の腹部に噛みついた怪物は、

彼女の下半身を失くそうとしていた。

「…止めろ。離せ。」

殺るなら死なない程度にしてほしかったから、とりあえずそう言った。

「......ばなザなァァァァイヨォォオォォ!!!」

でもその怪物は、噛む力を強めた。

ゴフッ、と白石美月は白目を剥いて吐血した。

嫌な予感がしたので、怪物を強制的に浄化した。

「...何で......助けた...。」

と、かすれる声で白石美月が言った。

「アァ!? 声が聞こえねェよ!!!」

そう言って、オレは持っていた刃物でソイツの喉を貫いた。

荒い息遣いで、相手はオレを見ていた。

「勘違いすんなよ!! アレはオマエを助けたワケじゃねェ、

オレがオマエを殺すためだけに浄化させたんだァァアァ!!!」

そう言って、白石美月の顔を蹴飛ばした。

血だらけの彼女を見てオレは、

「...いい加減理解しろ。オマエの父さんはもう死んだんだ。」

と言った。もう助からないって言ってんのに、何で抗うんだ...?

...そう訊こうとしたが、白石美月はもう既に、目を閉じていた。


ホントに悲しかった。辛かった。そんな自分が、ただただ情けなかった。

認めたくなかった。知りたくなかった。ワタシが一番見たくなかった、

最悪の未来を。もうどうでもいい。ここまで自分を汚しといて、

皆にまた顔を合わせるコトは出来ない。ワタシは、もうココで終わりでいいよ...。

...意識が朦朧とする中目を開けると、銃でワタシを撃とうとしている、

カゲフミ君のお父さんがいた。...? 何...? 段々と、心臓の音が強くなってく...。

ワタシは宙に浮かび出して、上から聖霊都市を見渡していた。

こんな感じだったんだ。全体像は。

意識が、これまでの記憶の欠片が、どんどん蘇ってくる...。

―――もう、ワタシは怖くない。


何だ...!? 地面からどんどん、白い光みたいなモノが出てきて...。

...マズい、このままだと殺られる...!!

「...コレまでの"過去の後悔"は常に、"未来の成功"へと向かう。

...大好きな人の死を散々悔やんできたワタシが、今ここで、

それに終止符を打つように...。」

「オマエに何が出来るんだよ!? もうコイツは助からないっつーの!!!」

そう言って、オレは手に持っていた白石美月の父親の生首を、

刃物で刺しまくった。その原型が、なくなるくらいに。

そんなオレを見て、彼女はフッ、と微笑んで言った。


「...月光術・"閃爆クラッシュ"。」


そう言ってしばらくした後に、自分の近くにあった閃光が、爆発し出した。

光はとても遠くまで続いていた。ホントに月まで届くくらいに...。


...あの時は、多少の謝罪の気持ちはあった。

でも、オレの身体にあった何かが、それを消し去るように。

まるで命令されて動くような、日々だったよ...。

...もうオレに、戦意はない。今オレはただ、目の前にいる本当の自分を解放した、

白石美月をただ呆然と見つめているだけだった。

...この、36年間歩んできた旅路は、ココで分岐点となるんだろう。


...カゲフミ君のお父さんは、顔が半焼けになっていて、

その部分は骨が剝き出しになっていた。

...今殺すコトが出来るのに、何故かまだ躊躇いがあった。

その場に落ちていた銃を拾って、とりあえず相手に向けた。

ワタシは右手の人差し指に力を段々と力を入れた。すると―――。

「...ッ!!」


-To Be Continued to Episode:11-

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