Episode:8 それぞれの場所で

ワタシは家を飛び出して、近くにあった橋から景色を眺めていた。

街は夜になろうとしていたけど、澄んだ空には一つ、夕焼けが輝いていた。

するとその時、背後から誰かに抱きしめられ、手を握られたような感じがした。

「…誰です……か………?」

ワタシはまだ目から涙が出ていた。まだ全然冷静じゃなかった。

「…どこ行ってたのもー。めっちゃ心配したんだからね?しかもこの傷…。

痛いでしょ?早く手当しないと。」

その声で分かった。

「カゲフミ君…?いや、お父…さん…!?」

ワタシは一瞬、カゲフミ君かと思った。でも違った。

この低くて安心するような声色をしていた人は、ワタシの知人の中で、

あの人しかいなかった。

「…オレだよ。」

振り向いてみたけど、後ろには誰一人いなかった。

世界ではコレを、”幻覚”というらしいけど…。本当に、どうかしてるな…。

もう幻覚まで見えるようになってきちゃったから…。

「…。ねぇお父さん…。ワタシ本当に…どうかしちゃってるよね…。

急に家飛び出して、手を血まみれにして…。どうすればいいの…?」

と、ワタシは言った。本当はこんな無様な姿をお父さんに一番、

見られたくなかった。

「…じゃあ。気持ちが落ち着くなるまで泣きな。

それまでオレは、ココにいるよ…。」

「…ありがと……ウゥ……。」

ワタシは声を上げて泣いた。でもそんなワタシをお父さんは、

何も言わずにただただ見守っていてくれてるような気がした。


夕焼けは沈み、今度は月が光り始めようとしていた。

…そして、ワタシの幻覚のお父さんは、目に涙を浮かべながら、

段々と消えて亡くなっていった。


あの事件以来、オレはミヅキさん達と話せずにいた。ミヅキさんのお母さんには、

「次の行き先が決まったから、そこで暮らすよ」

なんてウソついて、あの人達との関係を一旦、断ち切ってきてしまった。

戻るつもりは一向に出ては来ない。ていうか居場所なんてないんだから、

いずれは戻るのが未来なんだろうけど…。

「…何であの時、オレから出て来なかったんだ?」

ココで一つ疑問が出てきた。それまではコイツの存在を、フル無視していたのだ。

「初めて会った時言っただろう…。オレはあの時、

“例の暗号を唱えないと出て来ない”と。だからだよ。唱えてもないのに、

出て来れるワケないだろ。」

「…何で? 唱えたじゃん? オレ。心の中で。」

「アホか。心の中で思ってるコトが、オレに伝わるワケないだろ。

都合が良すぎる。ちゃんと口頭で唱えろ。じゃないといつまで経っても、

オレが出てくるコトは無いぞ?」

何を偉そうに…オマエはあの時何があったか知らない癖に。

あの後何があったのか、知らない癖に…!!

「ありがとう。次からはそうするよ。」

「…フン。」

そう言って、怨霊は自分の身体に入り込んでいった。


一方その頃、”Ultimate Curse”は立入禁止区域とされて、

今は実質廃墟となっているミヅキ達の家に潜む犯罪者の討伐任務に派遣された為、

そこに向かっている途中だった。

「…見つけた。」

「…誰だ?」

今まで葬ってきた人達とは、明らかに違う感じがした。

恐らく、コイツとは戦うコトになるだろう…。恐れてはいたが、

刃物を取り出し、攻撃をしようと構えた。すぐさまオレは、立ち向かった。

…やはり一発目はかわされたか…!!

「…オマエは一体誰なんだ? 答えろよ。」

その質問に動じるコトもなく、オレはソイツを蹴り飛ばし、外に出した。

何か家の物を壊したくはなかったから、外での方が戦いやすかった。

オレは攻撃を続けた。でもココで、一つ何かがおかしいコトに気が付いた。

待てよ…? コイツ、防御の姿勢を保って、攻撃の姿勢をこっちに見せない…。

…!! そういうコトか…!?

それに気付いたオレは、直ちにソイツから離れた。

「…逃げんのか?」

と、ソイツは言った。ソイツは深呼吸をした後に、

「…今だ。」

とだけ言って、手を叩いた。その時だった。その攻撃は、オレの左腕を破裂させた。

「…ァァアァァァアァァァアァッッ!!!」

その痛みに思わず叫んだ途端に、反射でなのか、無意識にあの技を出していた。

その攻撃は、ソイツの身体を蒼く燃え上がらせた。

「…やるじゃん。」

自分が焼かれていながらも、ソイツは余裕そうに、フッと笑って言った。

「…さっきの質問の答え、教えてやるよ。」

ホントはコイツ、良いヤツなのか…?

「…オレは”Ultimate Curse”。」

いやそんな考えは捨てろ。良くも悪くも、コイツは犯罪者なんだ。

「オマエを…。」

何でだ…? 今まで犯罪者達を葬るのに、こんなに考え込むコトなんてなかったのに…。

「…始末しにきた者だ。」

その炎はさっきより強く、そして美しく、ヤツの命を奪っていった。

とりあえず任務が終わったため、オレは本部へと戻るコトにした。


血だらけで歩いていたから、集まる視線は普段よりも強かった。

歩いていたその時だった。見覚えのある顔をした人が、オレの右を通り過ぎた。

「…レイカ…だよね……?」

レイカ…。ホントに、オマエなのか…?

「悠一君…? 悠一君なの…!?」

彼女は走ってきて、オレに抱きついてきた。

…そうだった。”Ultimate Curse”は偽名なんだった。

「久しぶり…!! どうしたのそのケガ…救急車呼ばないとダメでしょ…!!」

涙交じりに、レイカは言った。ていうかもう、彼女は泣いてた。

そりゃ約半年ぶりの再会となるから、お互い心配していたからだろう。

「ちょっと仕事でやられちゃった。でも…」

そう言った途端、自分から水色の光が出てきた。オレらは目の当たりにした。

複数の細胞が集まって、一つの腕を形成する。その瞬間を。

そして、オレの左腕は復活し、傷の痛みもなくなっていった。

「今こうして復活したんだ。だからその必要は、無いかな。それにしても…。

…こんなにダッセェ姿、オマエにしか見せらんねェよ…。」

「エッヘヘ…そう? 嬉し。」

彼女は半年前と何にも変わってない、その眩しい笑顔で、

ちょっと照れ気味に言った。


「じゃ、オレはもう行くよ。」

と、悠一君は言った。正直ワタシは、もうちょい一緒にいたかった。

「うん、またね。」

でも仕方ない、と思い、手を振りながら言った。

また会えるよね…? 会えたとしても、それはずっと先の、遠い未来なの…?

考えれば考えるほど、不安は強くなっていった。


「…もう夕暮れだし、今日はもう、ミヅキさん達の家…じゃない。

あのホテルに戻らないとな…。」

でも、戻る気は一向に出て来ない。でも、もう選択肢は一つしかないんだ。

そう思い、少し迷ったが、扉を開けた。

「た…ただいま……。」

苦笑いの顔で言ったから、イメージは悪化しただろう。

その途端、走ってくる足音が聞こえた。ミヅキさんかな?

するとやはり、その人はミヅキさんで、オレに抱きついてきた。

「おかえり…めっちゃ心配したんたんだからね…!!」

少し気まずくなるか…? と思ってたけど、全然そうでもなかったから、

少し安心した。何にせよ、関係を本当に断ち切らずに済んだんだから。


-To be continued to Episode:9-

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