Episode:5 襲撃前夜

「7組の…白石美月って人だったはず。」

「…!!」

段々と周りが白くなってくのと共に目覚めた、まだ夕方だ。

ソファーに横たわる自分の隣に、隣にミヅキが座っていた。


「あ、起きた。おはよっ」

「おはよ。ハハッ。変だな、オレ。気付いたら寝てた。」


…あの時は何ともしなかった名前が、今となるとすげェ心に響くな…。

でもあの時自分の中学校に、オレがいたコトに、相手は気付くワケないだろうが。

少しモヤモヤしてきたが、ここで夕飯ができたというので、

夕飯にするコトにした。


「…ミヅキさん。」

「ん?」

「凄く変なコト聞くかもだけどさ、オレの中学校に、いた?」

あの日確かに、先生はアナタの名前を言ったはず…!!

「あ、やっと気付いた?」

「…うん。」

ほらやっぱり!

「だってよく考えてみろよ…。何も知らない子供を、

ココに滞在なんて易々とさせるワケねェじゃん!」

確かに、と父の言葉には納得がいった。

「それに知らないと思うけど、一応カゲフミとミヅキは、同じ病院、

病室で生まれたのよ。それに、私はアナタの母とも、よく会ってたわ。」

「…!! アナタ達がまるでオレのコトを知ってるかのように

接していたのは、それが理由だったってコトか…!!」

「実質オレ達は、オマエの今起きているコトへの違和感への

気付きを待ってたようなモンだからな。」

「そっか。でもオレはガッカリしたかな。ミヅキ達自体のコトを、

両親が知ってたとなると。だってオレは知らなかったから。」

「…確かに、そうなればあの人達がワタシ達を狙ってる理由も、

分かるかもしんない…!」


22:36 カゲフミの寝室で———。


「…最近ずっと、気になってたコトがあるんだ。

最近肩が、やけに重く感じるんだよな…。

今は誰もいない。だから、姿を現せ。」

すると謎の効果音と共に、黒い霊のようなモノが出てきた。

「どうやら前からワタシの存在に気付いていたようだな…。」

「当たり前だ。早く言え。オマエは何だ? ヒトなのか?それとも…

…!! オマエ、”怨霊”だな?」

それには何故か、思い当たる節があった。

「…ハッキリ言わせてもらおう、ワタシはとある理由があって、

オマエに取り憑いている”怨霊”だ。」

「何でだ? 何で最初に、その”理由”を言わない??」

オレはそれが、不思議で仕方なかった。

「まだ、理由を言うには早すぎるんだよ。」

「…オマエらしい答えを聞いた気がするよ。」

「だろ? でもそんなこたぁどうでもいいので話を変えるが、

ワタシはオマエが絶対に知らないことを、知ってるぞ。

例えばヤツが、”Ultimate Curse”が———。」

“Ultimate Curse”と言う言葉に、反射的に反応してしまった自分がいた。

「Ultimate Curse!? オマエもアイツを知ってるのか? 知ってるなら、

オレに教えれること出来る限り教えてくれよ。」

「いいぞ。まず、ヤツが殺し屋になった理由として、過去説が

濃厚であるというコトだ。」

「…もっと為になるようなコトは、無いのか?」

「あるぞ。それは、ヤツがミヅキの姉と付き合っていたコトだ。」

それも全然為になるようなモンじゃねーじゃん…。…! 待てよ…。

「だから、アイツが派遣されたってコトか…! ちなみに、その関係は今でも…?」

「…ただ、ミヅキの姉が行方不明になってしまってな。結局、物足りないまま、

関係も自然消滅したそうだ。」

「…あの人についての、大抵のコトが分かった。もう戻っていいぞ。」

…何で勿体ぶっちゃうんだろ…。聞きたいコトは、まだごまんとある癖に…。

「…分かった。その前に、オレを呼び出す呪文を覚えといてほしいんだ。

オレは”———”と言えば出て来るぞ。———。覚えたな?」

「うん。」

「…よし。」

その”怨霊”と名乗る者は、再び謎の効果音と共に消えていった。

「ハァ…。家族なんて大嫌いだ。」


翌日の朝———。


結局この日をついに迎えてしまった…。悔やんでも喜んでも、

この日でミヅキさん達は生死が決まる。戦略をもっと緻密に立てといた方が

良かったかなー…。…この自然も、もう見れないのだろうか。

オレは結局…何も解決出来ずに全て失うのが未来なんだろうな…

夜までは、案外いつも通りに過ごした。そう、夜までは。


21:39 ミヅキの家付近


「…。」

あの人は何処へ行ってしまったんだと、つくづく思う。

オレの話に付き合ってくれた、唯一の仲間の、”レイカ”は…。

「…ハァー…。今日守りに行く所の家族は、レイカの両親とか兄妹とかだから、

ちょい気まずいんだよなー…。…!?」

背後からの痛みで、全てを察した。刺された…今オレ刺されたんだ…!!

「…いつまで勝手な真似しやがんだ。もう見たらんねェ。このまま殺すぞ。」

「野郎…。」

何とか刃向かおうとして、構えの姿勢をとった。

「無駄な抵抗はよせ。見てるこっちが不愉快だ。」

「いっそなら、ココで殺してやりてェ気分なんだけどなァ…。

でもこんな理由で捕まって、後悔する未来がもう見えたんだよ。

だからココではよすさ。せいぜい頑張るんだな。」

「…覚悟しとけよ。」

そう言ってまた、一瞬で姿を消した。侵入の準備にでも行ったんだろうか。

「そっちこそ、一家とカゲフミという、実の息子を殺す覚悟は

出来てんだろうな…。いやー日々鍛えてるおかげで、軽傷で済んだわ。」


———一方その頃、ミヅキ達は———。


「…ねェミヅキ。」

「んー?」

「…死なないでよ…。」

涙混じりに、その言葉は出た。まだ来てもないっていうのに。

「そんなこたぁどうなるか分かるはずねェだろ。オレ達が死ぬか、

あっちの方が死ぬかに絞られたんだ、この後の未来は。」

…何でこの人達は、こんな状況でもオレを励ましてくれるんだ…。

「それに安心してよー。ワタシ達、カゲフミ君が思ってる数倍は、

強いと思うからね?」

「…数…倍…?」

顔を伏せたまま呟いた。

「いやホントに。何にせよ、ココにいる人は全員、”月光術”ってモノを

持ってるからね。」

「…何それ。」

「名前に”月がある人の本人と、その親子が取得できる術さ。でも、

全員が持ってる、というわけじゃねェんだけどな。」

父さんが付け足した。

「…何で?」

「自分で選べるからだよ。取得するか、しないか。そしてその親も、

取得するかしないかを選べんの。だからオレ達も、取得しようと決めたワケ。」

「…なるほどな。まあ”Ultimate Curse”さんも来てくれるんだ。

それなら死ぬ確率は、至って低いかもしんないね。もう10時半だ。

一応の為に、部屋に戻って準備はしておこう。」

「…りょーかーい!」

とミヅキは言って、部屋に戻っていった。

父さんとお母さんも「オッケー」と戻っていった。

いける…! このまま順調に進めば、誰一人死なずに済む…!!

何故かオレは、希望に満ち溢れていた。


22:07


ミヅキの家は、住宅街から遠く離れた、森に囲まれた場所に位置する為、

辺り全体が暗くなっていった。数分後、夜空には積乱雲が発達し、

激しい雨がザーザーと降り始めた。


「…ねーねー。」

「ん?」

「本当に…行くの?」

「…今から引き返すというわけにもいかないだろ。無論、このまま侵入するさ。

ところで、今誰かの悲鳴が聞こえなかったか。それも結構ヤバいのが。」

何言ってんだコイツ、とカゲフミの母は白い目で父を見た。

「空気読めよー。そこで冗談は違うだろー。ていうかそれよりも、大丈夫なの?

物音とかでバレちゃうかもしんないんだよ?」

「そこは安心しろ。体を透明化させて入る。

絶対にバレない。そうときまれば侵入だ。…準備はできてるよな?」

「いつでも。」

「…よし。……。」

一瞬だけ、遠くの明るい場所を見た。でもすぐに、視線を戻した。

「サァ…。今度こそ…仕留めてやる。」

カゲフミの両親の奇襲は、今ココで開始された。


-To be continued to Episode:6-

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