Episode:4 錯乱

(ピーポーピーポーピーポーピーポー)


「…救急車…。…まァた面倒なコトになりやがったなァ…。あの親父は

息子がこんな状況に陥っても、本当に何ともならんのか…?」


———3日後 21:56 搬送された病院にて


…オレはここで何度も深呼吸をしていたコトだけは覚えてる。

そして今、目が覚めたんだ。そうして何とか、状況整理をした。

「…落ち着いたか。」

安心したようにミヅキさんのお父さんが、オレを見つめながら呟く。

「…!! あの後オレは…。」

「カゲフミ、オマエは貧血で倒れた。恐らくあの事件に父親が関係してた

コトへのショックで。どう? もう立てそうか?」

「…結構回復して来ました。歩けるかもしれません。」


そう言ってオレは、ベッドから出た。


「…家に戻るか?」

「…はい。」

「…後、敬語はもう終わりにしてよ。もう使う程の関係じゃねーから。」


家に戻るコトにしたが、見覚えのある人物とすれ違った。


「誰だ…? 今の人…。病院に向かって行ったぞ、断じて怪我も無さそうなのに。」

「誰かの見舞いにでも、来てるんだろ。」

「そっか。」


一方、受付では———。


「すいません。カゲフミという人は、ココにいましたか?」

その人は、どうやらカゲフミを探しているようだ。

「その方ですが、先程元気になって帰って行きましたよ。保護者様ですか?」

「はい。その子の、父親です。」

明るい笑顔を浮かべてカゲフミの父親は言った。

「まだ近くにいると思うので、会いに行ってはどうですか。」

「じゃあそうします。わざわざ申し訳ありません。では、失礼します。」


カゲフミの父親は、病院を出た。


「…生きてたか、あのバカは。」


「ねぇ、父さん。もう5日のうちの、3日を病院で過ごしてしまった。

あと2日で、ミヅキ達が生き続けるか、死ぬのかが決まるっていうのに…!!」

「それは正論だが、身体の異常を無視して対策するわけにもいかないだろ。

それもさておき、家に戻ろう。車でミヅキが、待ってるぞ。」


車に行くと、ミヅキが既に座っていた。でもそこにミヅキの母は、いなかった。

恐らく家だろう。


「…あ、カゲフミ君帰って来た!」


そう言って、ミヅキは笑顔でオレに手を振ってくれた。


「ただいま。待ってた?」

「おかえり。待ってたよ。結構…長く。」


…どうやら病院から家までは近かったようで、もう家に着いてしまった。

家の前に、一つ青黒い車が止まっていた。


「…そうだカゲフミ。オマエに、会わせたかったヤツが来てる。

だから、行ってみろよ。」

「…分かった。」


車から出て来たのは、あの男だった。


「久しぶり、カゲフミ君。ボクのこと、覚えているかい?」

この人は…!!

「…もちろんですよ。あんなコト言われて、忘れられるはずがない…

…父さん。何のためにこの人を…」

「カゲフミの両親が来た時の為に、オレの知り合いが、殺し屋を派遣したのさ。」

「そして覚えといてほしい。ボク達が所属する殺し屋は、

キミが思い浮かべる殺し屋とは違う。あくまでも、悪人や犯罪者の始末の為に

あるモノであって、キミらみたいな罪なき子供の始末の為に、

あるモノじゃないということを…。それに、この殺し屋は、国が作った組織だ。

このことから何が言いたいか分かるかい?」

「…サッパリだ。」

「つまり、君の父親は、殺し屋の使い方を間違えたんだ!」

「…やっぱそれか。」

「ボクもあんな奴の命令を易々と受け入れた自分が許せなくてね、

だから今、この場にいると言ってもいい。

分かったかい? ボクの伝えたかったコトが。」

「…あらかたは。」

「よし。おっと、時間だ。オフィスに戻んないと、じゃ、明日よろしく頼むよ。」


車に乗って、その”Ultimate Curse”という男は去って行った。


…小学校の頃の自分が、頭に浮かんできた。ずっと虐められてた…っけ。

少なくとも、こんなにコミュニケーションをとるようなタイプじゃなかったな。


あれは小6の夏か…。

第三者の視点で、過去の自分を思い出しながら、過去の出来事を除いていた。


「陰キャは生きる価値マジで無いから、黙って死んどけよ!!」

そういって、生徒から思いっきり顔を殴られた。血も出ていた。

「…言っとくけどな、そういう奴はマジでこの学校の敵だから。

別にテメーが転校したって、誰も気にもしねェっつーの。だからとっとと消えろ」

そう言われて、もう一人の生徒に蹴り飛ばされた。


そこでまた、殴られたり蹴られたりした。


…うるせェよ…。一体何なんだよテメーらは。髪長いだけで、

陰キャと決めつけやがって。だからこんな、まともに学校にも行けない

体質になったんだろうが。それでも、不登校にはならず、

学校には行き続けた。自分が情けなくて、許せなかったんだ。


それから数日の教育相談———


「最近顔つきが変わってるように感じるんだけど、大丈夫? 困ってるコトない?」

「…大丈夫。自分で…解決できる問題だから。」

絶対大丈夫じゃない、死んだ魚のような目をしてその言葉を吐いた。


結局あれからも、一人や二人じゃなくて、色んな人から虐められてきたオレは、

卒業式も行かず、中学生へとなった。歩いてるだけで、カゲでコソコソと

生徒に話されるようにもなったっけ…。


それでも、絶対に人に被害を出さない人間であろうと、努力した。

何度暴力を振るわれようとも、毒を吐かれようとも———。


1学期 教育相談にて———。


「虐められている、ってカゲフミはアンケートで回答したけど、

今はどんな感じなの? 困ってるコトとか、ある?」


何とか担任とは相性が合って、中学校で唯一の、話し相手だった。

オレにはその言葉がとても暖かいように感じた。


「…素直に言っていいよ。先生は別に、公表したりもしない。

ただ、カゲフミがそう答えたのなら、心が”助けて…”と叫んでる証拠だよ。

必死に抗って、耐え続けて、平和な日々を送りたがってるの、知ってるよ」

「…先生。」

「…うん。」

「…………辛いよ…。」

それを言う前から、自分の目には涙が溢れていて、

一瞬全てから解放されたような感じがした。

「…何で辛いのか、詳しく話してごらん。」

「小学校の時から…虐められてたけど…その時は先生には隠してた。

”先生にオレがどれだけ苦しい思いをしてきたか、分かるわけがないだろ。”

って思ってたから…。でも今の先生には言える…。オレはね、暴力は

今までも振るわれて来たけど、中学生になってから廊下を歩くだけで、

生徒からコソコソと話されるようになった。今まで我慢してきたつもりだけど、

耐えられないよ、もう…。」

「…アンケートで虐められたらどうするかっていう質問に、

カゲフミは”転校する手段を考える”と回答したけど、転校したら、

学校の人達が悲しむんじゃないかな。」

「…何で?」

「だって知ってるんだ、カゲフミには、ずっと味方でいてくれてる

友達がいるってコトを…。何よりも、カゲフミの担任であるオレも、悲しいよ。

でも、するかしないかは、自分次第だ。」

「…待って。オレに味方がいるって…?」

「あれ、知らない? 生まれた時から知っていると、

その人は言ってるんだけどねぇ…。確か、7組の…。

…白石美月っていう人だったはず。よく話しかけてくるんだ、その子も先生に。」

「…!?」


ハッとした。何で…ミヅキが同じ学校にいて、しかも生まれた時から、

知り合いなんだ……!!?


そう思った途端に、周りが白くなっていった。


目を開けた。オレはソファーで寝ていた。まだ夕方だ。ミヅキが座っていた。


「あ、起きた。おはよっ」

「おはよ。ハハッ。変だなオレ、気付いたら寝てた。」


———さて、先程カゲフミは過去を思い出していたが、

それは本当なのか…それとも、ただの夢だったのか…。


…その真実を、知る者は何処へ———。


-To be continued to Episode:5-

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