Episode:2 美しい月

誰かが…海辺に倒れている…。

オレはとりあえず、呼吸の確認をした。

…!! 息をしてない…。どうする…? 電話とかは無いぞ…!?

それよりも、ずっと学校にも行かず生きてきたんだから、

助ける方法知らねェんだよ…!!


すると突然、ドス黒い何かが、倒れていたモノを包んだ。


「…誰だ」

その何かを怪訝そうに見つめながら、カゲフミは言った。

「…ワタシは怨霊だ。死者の亡霊、そのものである。

この者を助けに、死後の世界からはるばるやってきたのだ。

そちらの方こそ、この者について知っているコトがあるというのか?」

“怨霊”…? そんなもん、本当にこの世に存在するのか…!?

「……。残念だけど、オレはこの人のコトをよく知らん。でも、

この人はオレを救ってくれた、命の恩人に微かに似てるんだよ…!!」

「そうか。ならオマエも◯*※△———。」


「…!!」

多量の恐怖を感じたのか、思わず目を開けた。

今の時間は8時くらい…かな。

…今のは夢か…。でも、あまりにもリアル過ぎる気がするんだよな…。

ひょっとしてこれを、”正夢”っていうのか…?

…現状がハッキリせず、戸惑っていたが、しばらくして、

やっと今の状況に気付いた。

…そうだった、オレは他人の家に泊まってるんだった。

これからどうしよっかねー…。 さっさとあの人達に別れを告げて、

戻るのもアリだけど、もう撤去されてそうなんだよなー…。

…心配されたら困るし、まずはとりあえず、下行こ…。

———ひとまずオレは、下への階段を降りた。…ミヅキさん達がいた。


「あ、降りてきた。おはよーカゲフミ君。」

「…おはよ。」

その挨拶は、元気には交わせなかった。

「…とりあえず、座りなよ。」

そう言われて、オレは椅子に座った。

…ただの普通の家族といるだけなのに、無性に自分を否定したくなる。

オレを捨てた両親…。隠そうとしても隠せない。表情にそれが出てしまう。

……気付かれていたらどうしよう。抑えきれない…感情の発露を。

そんな事を思っていた間に、テーブルには朝食が並べられていた。

「今日の朝食はウチ特製・ピザトーストだ! 腹一杯食ってけよ!

…何日も、食ってないんだろ。」

「…気付いていたんですね、それ…。」

料理が出来る弾性波珍しいな、と思いながら返事をした。

食べようとして、ピザトーストを自分の口に運ぼうとした。

でも、オレの手はまだ震えていた。

一口、齧ろうとしたけど、手が震えたまま、動かなくなってしまった。

「…どしたの? 何かあった?」

ミヅキさんが聞いた。

「…さっき今まであったことが、走馬灯のように頭に蘇ってきてた。」

「…その話、詳しく聞かせてくれない?」

どうやらミヅキさんのお母さんは、オレの過去に興味があるように見えた。

「他人に話すだけでも、不安な気持ちは和らいでいくって言うしな。

一応オレは医者だから、そういうコトには詳しいんだよ。」

その声色から、ミヅキさんのお父さんは、自分に自信があるように感じられた。

「…話していいよ。聞かせて。カゲフミ君の過去。誰にも言わないから」

吐きやすい雰囲気を作ってくれたので、断る訳にもいかなかった。

「…分かった。ちょっと待ってね。...頂きます。」

話す前に、ピザトーストを一口齧った。

しっかりと飲み込んでから、口を開き始めた。


「…オレは昔から一人でいることが多くありました。

そんな日々を過ごしていながらも、4歳になった時だった時…でしたかね。

父親が、海外へ出張に行った翌日、———父の死亡が、報告されました。

でもその後、それは自殺未遂だということを知って、

まだ生きているということが分かったんですよ。

…その時は幼かったから、そんなコトは分からなかったものの、

オレの父親は今もどうせ、のうのうと生きてますよ。

子供を捨てて…海外へ逃げた日から。」

「…お父さんがそんな人だったら、この家庭は無かったかもね。」

「…フッ。その通りだな。続けてくれよ。」

ミヅキさんのお父さんは言った。

「次に、父親がいなくなったから母が一緒にいてくれるかと思ったんですけど、

一人でいることが多いことに、変わりはなかったんです。

…あれは確か、オレの11歳の誕生日の翌日。起きた時、

机には一枚の手紙だけが残されていて、母の姿は、

どこにも見当たりませんでした。」

「…その手紙には、どんなことが書かれていたの?」

ミヅキさんのお母さんが聞いた。

「”さよなら。BEASTAR”って書かれてましたね。

Beastarビースターって何なんでしょう…。分かんなかったんですよね。調べても」

「…何はともあれ、大変だったんだな。それからの日々は。」

「それがどれだけ苦しくて、悲しくて、たまらなかったのは、

その表情でもう充分に分かるよ…。」

そういう人と一度会ったコトがあるかのようにミヅキさんが言った。

「…あ…あれ…?」

———自分の目に、涙が溢れていた。

「…普通の人とは違う日々を過ごした苦しさと、その事を話せる人が

誰もいなかった孤独さが、きっとカゲフミ君を縛りつけてたのね…。」

「…待て待て。せっかくの朝だっていうのに、泣かせちまったじゃねェか!!

益々心配になっちゃうだろ!」

怒ってる訳じゃなく、マジで心配されてる感じがした。

「…いいんですよ。ホッとした…だけですって。話せて。」

泣きながらオレは返した。

…でも、涙は中々止まってはくれなかった。

「…そうだ! 今日は休日なんだから、全員でどこか行くのはどうかしら?」

ミヅキさんのお母さんが言った。

「…良ーねそれ。」

「…悪くは…ないですね。行きましょうか?」

「…でも行くとしてもよォ、どこ行くってんだよ?」

「服屋、はどう? だってカゲフミ君、今その服しか持ってないでしょ。

ボロボロの服で、過ごしてもらう訳にも行かないし」

「言われてみれば確かに…。それがいい」

「…そうと決まれば出発だ! 着替えようぜ!」

「…ちょっと待っててね。着替えてくる」

———ミヅキ達は着替えに部屋へと戻った。

その間に、涙はもう消えていた。その後無事に、出発できた。


…カゲフミに希望が芽生えようとしていた一方、”Ultimate Curse”は、

カゲフミの父親と対話していた。

「アンタがあの子を殺せと言って殺した後、あの子は白石一家に

泊めてもらったそうだ。どうよ? 黒野。”オマエの子供は死んでなかった”ぞ。」

あの後どれだけ後悔し、憤慨して来たと思ってんだ。いや、そんなコト

考えてすらもないよな、コイツ。

「…!! 白石一家…と言ったよな?」

「…アンタもしかして、ソイツらのコト知って———」

「違う!! 確実に…死んでいたはずだった…。今の驚きは、アイツが

あんな傷を負っても生きていたってコトに対しての驚きだ!!」

「…申し訳ないけれど、それはオレが余りに弱すぎたから、

殺しきれなかったし、断れなかったっていうコトだよ。言っただろ?

“オレを雇うべきじゃなかったな”って。」

「………!!」

カゲフミの父親には、混乱が募っていく。

「それが理解できたなら、帰れ。顔も見たくないから、早く姿を消せ」

「…。」

彼は何も言わずに、背中を向けて去っていった。

「…大変だな。あんなヤツと話すのは。………今、カゲフミ君は何してんだろ…。」


その頃、カゲフミ達は服屋からレストランで夕食を食べ、

それから家に帰ってる途中だった。

「…ミヅキさんの父さん、お母さん。頼みがあるんですけど、

言ってもいいですか?」

「…どした?」

それにいち早く反応したのは、ミヅキさんのお父さんだった。

「オレを…ここに滞在させてくれませんか。」

「…!!」

それを言ったと同時に、3人には驚きと衝撃が走っただろう。

しかし、ミヅキさんのお母さんは、悠然と目を合わせていた。

「…みんな、アナタが今日どうするのか、ずっと考えてたのよ。

無事に家に帰るのか、って。でもワタシ達はキミをあの日々には

戻したくはない。例え家が撤去されなくても。だから…。

———万が一の為に、手段は考えてたの。でもワタシ達は…

…実質その言葉を待っていたに他ならないわ。これからも、よろしくね。」

「てか…何でですか? オレは…アナタ達にとっては、

あくまでも他人でしかないはずです。でも、何で躊躇いもなく、

そんなに気軽にオレのことを受け入れてくれるんですか?」

「…教えてくれたのよ。アナタの…お母さんが。」

「え…!?」

…………何で…。オレを捨てたヤツが…この人達に…伝えた…?

———アイツらにとって、オレは…一体何だ…?


…夜空に浮かんだ月は、今日も世界で生きている人々を祝福するように、

明るく、美しく輝いていた。


-To be continued to Episode:3-

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