ネックレス

 いつかの誕生日。

 あなたがくれた、細いチェーンのネックレス。


 あなたはそれを、不慣れな手付きで私の首につけると。


「やっぱり、似合ってる」


 はにかむように、可愛らしく笑っていたね。


 そんなあなたを試すように、私は聞いたんだ。


「ネックレスをプレゼントするのって、どういう意味かしってる?」


「うーん、あなたが好き、とか?」


「あは。なにそれ、そのまますぎ」


 直感で動くあなたらしい答えで。

 私は思わず笑ってしまった。


「じゃあ、どういう意味なんだよ」


「おまえは俺のもの、って意味」


「えっ……」


 それを聞いたあなたは、途端にあたふたして、


「ごめん、ものみたいに思ってるわけじゃないんだ」


 なんて、取り乱しちゃって。


「もー、分かってるって。……プレゼント、ありがとう。すっごく嬉しいよ」


 そんな風に素直に伝えたら、ホッとした顔になってくれた。


 不器用でも愛情を伝えようとしてくれるあなたが、心の底から愛おしかった。






 でも、あの時、ただお礼を告げるだけじゃなくて。


「ずっと、あなたのものでいさせて」


 なんて言えていたのなら。


 私からもっと「愛してる」って伝えられていたのなら。


 私たちはまだ、ふたりで一緒に居られたのかな。


 今はただ、ネックレス越しに伝わってきた、あなたの手の熱が恋しいよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る