商売はアイデアひとつでピンチにもチャンスにもなるという話
鈴乃
■
ある商人が商売を思いついた。
「ダンジョンには持ち主のいない武器や防具が落ちている。それを拾って、中古品として売ればもうかるぞ!」
商人は人を雇ってダンジョンに落ちている装備品を拾い集めた。
レイピア、ブロードソード、カタナと言った刃物はもちろん、鎖かたびらや全身鎧まで、拾えるものは全て拾ってこさせた。
店先にも大きな看板を立てた。
『冒険者さん来たれ! お買い得・中古装備品の店!』
たちまち完売した。
商人はほくほく。
しかし、一週間もしないうちに苦情と返品が殺到した。
少し使ったら壊れた。
見えない部分の金具が割れていた。
そんなのはいい。
『買った鎧を着て魔物と戦っていたら、急に体が動かなくなった』
『剣を持った途端に記憶が飛んで、気づいたら仲間が血だらけで倒れていた』
ダンジョンに落ちていた装備品の多くは、志半ばで倒れた冒険者たちのものだ。
それらは魔物がうごめくダンジョンの空気にさらされて、よくないものを宿してしまっていた。
商人はあわてて教会にお祓いを頼んだが、なにしろ数が多すぎる。
やがて客足はぱったり途絶え、倉庫に押し込めた返品の山からは、毎晩のように怨嗟の声が聞こえてくるようになった。
商人は震えた。
こわい、手放したい。だがこんなに強力な呪いが染み付いた品を、どうやって?
加えて、客への返金とお祓いの費用がかさみ、貯えは底を尽きつつある。このままでは路頭に迷う未来は避けられない。
商人はすがる思いで教会に泣きついた。年老いた神父はさとすように言った。
「二度とこんなことをしてはいけませんよ」
商人は考え足らずだった自分を深く反省し、神に懺悔した。
すると神父は商人に言った。
「帰ったら、店の看板を付け替えなさい」
商人は神父のアドバイスを忠実に守った。
その翌日。
店は数カ月ぶりの客で賑わった。
商人を悩ませていた品々は一つ残らず買い取られていき、真新しい看板だけが店先に残った。
『プロの呪術師さんにしか売れません★ホンモノのいわくつきアイテムの店』
その後商人は改めて中古装備品の売買を始め、良心的な店として広く名を知られるようになった。
特に、腰を落ち着けた冒険者達からは『相棒を託すに値する店』として評判である。
めでたしめでたし。
商売はアイデアひとつでピンチにもチャンスにもなるという話 鈴乃 @suzu_non
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