幕間  柚葉の過去

 ――それはまだ小さい頃。

 柚葉が小学校に入りたてだった時期だ。

 当時、彼女は今のような大人しい性格ではなく、勝ち気で高飛車な性格だった。周りの男には甘え媚を売り、女にはいじりを行っていた。

『ははっ、◯◯ちゃん、こんなことも出来ないの? 情けなーい!』

 小学校低学年のクラスメイトを相手に、居丈高な態度で接する。

 自分が小さい頃から「可愛い」と言われ慣れていて、自覚もあった。だから大抵のことは許してもらえた。

『やめろ、柚葉!』

 そのとき、通学路の後ろから、兄である海斗が制止した。どうしてこんなことするんだ、駄目じゃないか。そんなことを早口でまくし立てる。

 当時、柚葉はそんな兄の言葉がよく理解できなかった。

 劣っている人はいじめてもいい。そんな嫌な性格だったのだ。

 けれど、それも両親の他界や柚葉の中学校入りを機に変わる。容姿の可憐さも高飛車な性格が災いし、嫉妬やいじめに繋がった。

 何もかも変わってしまった環境、それを変えられない自分。柚葉は自分が馬鹿だったことに気づいた。

 支えてくれるのが兄しかいないという状況が、柚葉を変えさせた。以前の柚葉は知らなかったのだ――日常はあっさりと駄目になることがある。だから家族だけは、大事にしないといけないことを。

 それが柚葉にとっての原点であり、兄を慕う理由だ。



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