二三章 四姉妹から五姉妹へ
宴のあとのけだるさに覆われて、
勢い任せにご近所さんたちを招待しての大騒ぎ。すっかり、エネルギーを使い果たしてしまったのも無理はない。責任感の強い長女の
「もう、片付けるのは明日でいいや」
と、すべてを放り出している。
いつもクールでマイペースな
そんななか、
「前のチームに仕事をもらいにいく」と。
「お前、正気か⁉」
それまでのガス欠状態もどこへやら。
「お前、そのチームを追放されたんだろ⁉ そんなチームを頼るなんて、プライドないのか!」
「
「そ、そうだ。お前、それでいいのかよ⁉」
長女と次女が交互に叫ぶ。しかし、
「前にも言ったとおり、私のプライドは『空飛ぶ部屋を作る』という点にあります。そのためなら、なんでもする。あなたたちはどうです? ご両親の残した工場を守るよりも、見栄や体面の方が大切ですか?」
「そんなわけないでしょう! 両親の残した工場を守るためならなんでもやります!」
「オレだって!」
長女と次女が決意を込めて叫ぶと、三女と末っ子もうなずいた。ふたりの姉のように声に出して言わない分、静かで、より深い思いだったかも知れない。
コクン、と、
「そうでしょう? 私もそうです。『空飛ぶ部屋を作る』という目的のためなら女になった姿を見せるぐらいなんでもない。それになにより……」
「それになにより?」
「私は皆と暮らしていきたい。あなたたちと一緒に暮らし、あなたたちと一緒に空飛ぶ部屋を実現させたい。そのために……本気で女になることに決めました」
「ちょん切っちゃうんですか⁉」
「
言われて
「い、いや、ちょん切るとかそう言うことじゃなくて……。あくまでも『気持ちの上で女になる』って言う意味だから」
「正直、いままではやっぱり、前の仲間に女になった姿を見られるのはいやだった。だから、それが一番、簡単で確実な方法だとわかっていてもやる気になれなかった。でも、もうちがう。あなたたちと暮らしていきたい。なによりもそう思っている。だから、前の仲間たちにこの姿を見せる決心がついた。と言うより、そうすることではっきりとけじめがつき、女になれると思うんです」
「で、でも、お前を追放したやつらだろう? 仕事なんかまわしてくれるのか?」
「チームの仕事は軌道に乗ったところだった。だからこそ、『夢ばかり見ているやつはいらない』という理由で追放されたんです。その頃でも人手が足りなくて徹夜するのも当たり前だった。そこで、私が抜けた。となればその分、ますますいそがしくなっているはず。かと言って、私のかわりが簡単に見つかるはずがない。自分の腕にはそれだけの自信がある」
『うんうん』と
「だから、さばききれない仕事を抱えて困っているはずだ。その分の仕事をまわしてもらう。そうすれば、安定して仕事が得られる。生活費を稼げる。生活が安定すれば、空飛ぶ部屋作りに取りかかれる。『誰も災害で死んだりしない社会』作りに挑戦できるんだ。だったら、そうするべきだ。他人にどう思われようと関係ない。そうでしょう?」
他人。
そう。
――そうだ。いまの私にとっての仲間は、一緒に生きていきたい人たちは、この四姉妹なんだ。前のチームじゃない。
「……わかりました」
「
「ま、まあ、オレはいいけど……」
「四姉妹から五姉妹になるのね。賑やかになって嬉しいわ」
「結婚関係はひとりとしか結べないけど、姉妹関係なら全員と平等に結べる。姉妹ハーレムの新しい形」
『グッジョブ』とばかりに、
「ただし、条件がある」
「条件?」
「
「わかった、いや、わかりました。たしかに、新入りならそれが妥当でしょう。末永くよろしくお願いします、お姉さんたち」
「わあっ、あたしにも妹ができるんだ。あたしもほしかったんだよねえ、妹」
「それでは……」
と、そのやりとりを微笑ましそうに見ていた
「
「ありがとう、
「でも……」
と、
「本気で女性になるからには言葉遣いは学んでもらいます。いくら、男性的な女性も多いご時世だと言っても……」
「なんで、オレを見る⁉」
「やっぱり、ある程度は女性らしい仕種や立ち居振る舞いを身につけてもらわないといけませんから。いいですね?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
そう言って――。
「わかりました。では、明日……いえ、時間的にはもう今日ですね。夜が明けたらさっそくうかがいましょう。そのためにも、もう休んでください。寝不足でお肌の荒れた状態で出かけるなんて女として恥ですから」
「はい」
そう言って、
「な、なに……?」
不羈な予感に、
「女になるなら立ち居振る舞いの他にもうひとつ、身につけてもらわなきゃならないものがある」
「それは、貧乳の闘志」
「はっ?」
「その真っ平らな胸では女として恥ずかしい。だから、これからは
「オレがみっちり仕込んでやるからな。覚悟しろよ」
「あ、いや、おれは男だから、いくら努力したところで胸は大きくならないと……」
「『女になる』宣言はどうした?」
「うっ……」
「乳なんざ根性でデカくなる! そのためにも一に練習、二に練習! これからは毎日欠かさず乳闘訓練だ!」
「えええっ~!」
その叫び声が響くなか――。
ふたりがかりで連行されていく
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