二四章 かつての仲間たち
チーム・ハクヨウを構成する四人が一斉に目を見開き、『信じられないものを見た』人間特有の表情を浮かべたことを、責めるわけにはいかないだろう。
自分たちが追放したかつての仲間がいきなり『女になって』姿を現わしたのだ。たいていの人間なら驚きのあまり我を忘れ、
長い髪のカツラを被り、胸にバッドを仕込み、Tシャツにジーンズというラフな服装。事務職よりも外に出て現場を駆けまわる行動的な女性という雰囲気。髪に関してはいずれは自前の髪を伸ばすつもりだが、一日や二日で伸びるものでもないので、しばらくはカツラを使いつづけることになる。
また、下に関しては……。
やはり、『ちょん切る』までの覚悟はできないので、そのままにしておく。
中途半端と言えば中途半端な『女性化』だが、別に男と恋愛したいとか、結婚したいとか、子どもを生みたいとか言うわけではない。
ともあれ、
「以前とかわりないみたいだな。仕事がうまく行っているようでなによりだ」
『女になる』と決めはしたが、口調はかえていない。男として生きてきた自分がいきなり女言葉を使ってみても不自然なだけだろうし、怪しまれる結果になりかねない。それぐらいならいままで通りの口調で『男性的な女性』として通した方が自然に見える。そう判断してのことである。
『男性的な女性』であれば、無理してスカートをはく必要もないし、
「お、お前……」
チームリーダーである
声も震えているが、思わず
「本当に、
「そうだとも言えるし、そうでないとも言える」
「はっ? どういう意味だ、そりゃ」
「私はたしかにチーム・ハクヨウにいた
「そ、そうか……」
と、
「な、なんで、そんなことになったのよ⁉」
「……というわけだ。私は
あまりに堂々とそう言われたので、
「で、でも、いくらなんでも女になるなんて……。それぐらいなら戻ってきなさいよ。あなたの技術者としての腕はあたしたちみんな知ってるわ。空飛ぶ部屋へのこだわりさえ捨ててくれれば、いつだって復帰を歓迎するわ」
その
このふたりにしても別に
「せっかく良い腕しているのに、いつまでも子どもみたいなことを言っていて……」
と、惜しんでいた。
もし、
その点においては、
「
技術屋に性別なんて関係ないしな。
一切の迷いも、ためらいもなく、そう言いきる
「……それで、そのお嬢さん方と一緒に実現させようってのか?」と、
「このふたりは、いや、
その言葉に――。
――やっぱり、この人って一生、子どものままなの?
『生涯の望みを捨てることが『おとなになる』ことだというのなら、私は一生、子どものままでいい』
「'……なるほど。よくわかった」
「お前を追放したのは、やはり正解だったってな」
チームリーダーの言葉に
それに対し、
「それで?」
と、
「その『女になった』
「仕事をまわしてもらいたい」
「仕事?」
意外な答えだったのだろう。
「そうだ。さっき説明したとおり、
「ふん、なるほど」
と、
「たしかに、余っている仕事ならある。そいつをまわしてやるのはかまわないが……人にものを頼むにしちゃあ、態度がでかいんじゃないのか?」
「'ちょっと、
そう思ったのだろう。
しかし、
「仕事をまわしてください。お願いします」
「……ふん」
と、
『簡単に頭をさげるなんて、プライドってものがないのか』
と、怒っているようでもあるし、
『素直に頭をさげられてつまらない』
と、残念がっているようでもある鼻の鳴らし方だった。
「まあいいだろう。女になってまで『夢』を追おうとするその態度に免じて、仕事をまわしてやるよ」
「'ありがとうございます」
営業ともなれば、どんなに理不尽でも頭をさげなくてはならないことはある。技術畑一筋ではあっても、チームの立ちあげ初期には他の皆と一緒に営業のために駈けずりまわった身。そのことは骨身に染みて知っている。
「さあ、ふたりとも。帰ろう」
「で、でも……!」
正統派美女のその顔が怒りに燃えている。
そんなふたりに向かい、
「いいから。用はすんだ。これ以上ここにいても時間の無駄だ」
そう言って――。
「なんですか、あの態度は⁉ わたし、頭にきました!」
「そうだ! とくに、あの
「……運転中だって言うことを忘れないでくださいよ、
怒りのあまり頭から湯気を立て、時速二〇〇キロぐらいでぶっ飛ばしそうな
「なんで、そんな冷静でいられるんですか⁉ あの
「そんなのは、どうでもいいことだからですよ」
「私の目的は空飛ぶ部屋を作る。その一点。それ以外のことはどうでもいいことです」
「でも……」
「いいんです。これからは定期的に仕事をまわしてくれると
帰り際、廊下に出た
「あの……
そういう事情とあればチーム・ハクヨウとしても否やはないし、チームリーダーの
「あの
「やっぱり、あの態度は腹が立ちます!」
「'オレだって!」
と、
「
「'そうとも! このまま引っ込んでいられるか!」
息巻くふたりに対し、
「それはちがう。私たちの目的はあくまでも『誰も災害で死んだりしない社会を作る』ことだ。つまらない見栄やプライドを満足させるためじゃない。そうでしょう?」
「そ、それはそうですけど……」
「つ、つまらないってことはないだろ……」
「'だったら。
「そ、そうですね……」
言われて、冷静になったのだろう。
「……わかりました。あの人たちのことなんて気にしません。なにがなんでも空飛ぶ部屋を実現させましょう。わたしたち自身の目的のために」
「ああ」
「そうだ。誰も災害なんかで死んだりしない社会。その礎を私たちで作るんだ」
「はい!」
「おお!」
ふたりの力強い叫びを受けて――。
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