二一章 姉妹になろう
「……というわけで、今日はお祝いなの。
正統派の美少女だけに、そんな表情をするとたまらなくかわいい。ロリコンでなくても『……尊い』と、思わず呟いてしまいそうな表情だ。
「あたしの料理でいいの? そういうときは普通、どこかのお店に行ってご馳走、食べるものじゃないの?」
「なに言ってんだ」
と、
そんな男前美女は、かわいい末っ子に向かって言った。
「お前の作る料理こそが、オレたちにとって一番のご馳走だよ」
そう言われて――。
純粋な喜びに満ちたその笑顔。心の汚れたおとなにはまぶしすぎて直視できない。
――尊い。
口元を押さえ、涙を溜めながら呟く。
「わかった! 任せて。腕によりをかけて最高のご馳走、作るわね」
「わたしも手伝う」
と、三女の
その嬉しそうな姿に
「あんなに喜んで。やっぱり、
「あ、い、いえ。私はなにも……」
と、ドギマギしながら口ごもる。
「だけどさあ」
と、
楽しそうにメニューについて話しあう妹たちを見ながら、宇宙の真理について尋ねるがごとく疑問を口にした。
「『料理して』って言われて、そんなに嬉しいもんかなあ? オレだったら『食いたきゃ自分で作れ!』だけどなあ」
目玉焼きを作るつもりで、すっかり炭化した暗黒物質を作ってしまう
そんな
「取り引き先から『あなたの作る部品こそが、我々にとって一番の高級品なのです』って言われたら?」
「ものすごく、わかる!」
男前な美貌を凜々しく引きしめ、即答する
そうこうしているうちにメニューが決まったらしい。
「
「OK」
外見は女でも中身は男。荷物もちという力仕事なら自分の出番。
とにかく、
工場と言うことで防音設備も整っているし、人口減少著しい田舎町。近所には空き家も多い。少しばかり騒いだところで近所迷惑にはならない。と言うわけで、今夜は羽目を外して騒ぎまくろうというわけだ。それはいいのだが――。
四〇~五〇キロはある機材を軽々と肩に担いで移動させる
――体力では勝てない。技術を、技術を磨こう。
と、涙ながらの敗北感と共に、そう思わざるを得ない
パーティー会場の設置はゴリラな長女と戦闘民族な次女に任せておいて、三女と末っ子+1は近所のスーパーへ。さすがに
「……ええと、鶏肉にリンゴに、これで、このスーパーで買うものは全部ね」
「あれ、
「ナッツ類は百円ショップで買った方が安いから」
その言葉に――。
「いやいや。今日はお祝いなんだから、そういうことは気にしちゃダメだよ」
「あ、そっか。つい、いつもの癖で……」
と、
その表情がまたかわいい。
「日頃、一円でも安くすませようとあちこちのチラシを見比べて、安いところを求めてハシゴしてる」
「そ、そうなの?」
「財布の紐を縛りながらつづける悲しいマラソン」
――そうか。
末っ子のいじらしさにほろりとさせられる。
そして、
――このままじゃいけない!
健気な少女の姿に保護者欲を刺激され、そう誓う
「やるぞ、よしっ!」
ギュッと拳を握りしめ、小さく叫ぶ
「そう言うところが、ロリコンと言われる」
と、
買い物を終えての帰り道。
まだまだ夏真っ盛りの九月、そのうだるような午後の日差しのなか、甘い氷の感触を楽しみながら歩いている。
近所まで帰ってくると、これから買い物に行くらしい知り合いに出会った。
「あら、
「はい!」
と、
「今夜はパーティー。うるさかったらごめんなさい」
と、
「まあ。みんなでパーティー。楽しそうでいいわねえ」
と、その中年の女性は微笑んだ。
女性にしては肩幅の広いガッシリした体付きで、とくに下半身はドッシリした安定感がある。いかにも『おばさん!』という感じの人物で、人の良さそうな笑顔も相まってなんとも言えない安心感がある。
――たしか、
もともと、技術畑一筋の人生とあって、他人の顔と名前を覚えるのは苦手な方だった。とくに女性は。共にチームを立ちあげることになる
しかし、学生の頃はそれでよくても社会人となればそうはいかない。取り引き相手の顔と名前は一発で覚えなければ『失礼なヤツ!』と相手にしてもらえなくなる。そこで、必死に顔と名前を覚えるコツを調べあげ、覚えられるようにした。そのおかげでなんとか初対面の相手の顔と名前を覚えられるようになった。そのときの経験が役に立っていた。
――
その
「
「あ、こんにちは、
「あらやだ。おばさんでいいわよ。それにしても、よかったわねえ、
「はい。賑やかになって毎日、楽しいです」
「自慢の
発音は同じなので、
その様子を見て
――完全に、女性だと思われてるな。これはいよいよ男だとバレるわけにはいかないな。
おそらく、この世話好きのおばさんのことだ。
せっかく、四姉妹との暮らしが軌道に乗りはじめているところなのに、そんな騒ぎは起こされたくない。
――となると、いよいよ本当に女にならなきゃいけないかな?
そう思う。
――っで、女になって、なにか悪いことがあるか?
――うん。ないな。
実際、女になったところでなにかまずいことがあるとは思えなかった。まあ『ちょん切る』とか、そこまではしないとして。
別に付き合っている彼女がいるわけではないし、女になったからと言って男とどうこうならなければいけないわけではない。結婚して、子どもを生んで……などと言うルートをたどる女性のほうが物珍しがられるご時世だ。一生、ひとりであっても奇異な目で見られることはないだろう。
両親は未だ健在なので、一人息子が女になったと知ったらショックだろう。だからと言って、とっくに独立して自力で生活している身。親にどう思われようが知ったことではない。
もし、怒りにまかせて『勘当だ!』などと言い出したところで痛くもかゆくもない。このまま、四姉妹と暮らしていくだけだ。むしろ、『親の老後』を心配する責務から解放されてありがたい。勘当騒ぎを起こして困るのは老後の支えを失う両親のほうだ。
――そうだ。おれは確かに、この四姉妹と暮らしていきたい。この四姉妹と一緒に目的を叶えたい。おれには男であることにこだわる理由はない。このまま女になって、姉妹の一員として加えてもらおう。
いまこそ、そう決意する
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