二〇章 天使の食卓
「さあ、召しあがれ」
おまけに朝食そのものも色鮮やか。真っ赤なソースの上に乗った白身がプリプリした目玉焼き。グリーンサラダ。バターをたっぷり塗った厚切りトースト。赤と白と緑のコントラストが目にまぶしい。
ちなみに、
芳香を漂わせる色鮮やかな朝食風景に
以前のチームにいたときには五人が持ち回りで作っていたし、料理が得意と言えるのは
「毎日、こんな朝食が食べられるなんてなあ。
「なに、小学生相手におべっか言ってんだよ」
「いや、おべっかなんかじゃないって。本当にすごいと思ってるよ」
「へへー、ありがと」
と、
「
いまどき、こんなことをやさしい笑顔と声で言ってくれる女子なんて世界中に何人いるだろう。しかも、それがアイドル級の美少女。
ともかく、朝食がはじまった。
「いただきま~す!」
と、明るい四姉妹+1の声が響き、作り手が喜ぶ旺盛な食欲を発揮した。
「えっ? これって、リンゴ?」
驚きのあまり、そう尋ねる。
作り手である
「そう。トマトとリンゴとマッシュルーム。さいの目に切ったリンゴをさっと炒めて取っておいて、カットトマトと粗みじん切りにしたマッシュルームを煮込んで、水分が飛んだところでリンゴを戻して、お皿に盛って、その上に卵を落としてオーブンで焼く。コツとしてはリンゴはあくまでさっと焼くことね。熱を通しすぎると甘くなりすぎて食事には向かなくなるから。あと、赤いリンゴより黄色いリンゴの方がいいみたい」
得々とそう語る姿は『将来は料理研究家か』と思わせる貫禄だった。
「へえ。リンゴを煮込んだりするんだ」
「日本ではリンゴは生で食べることがほとんどだけどね。他の国では料理にもよく使うのよ。とくに、地中海沿岸ではね。煮込み料理の他、ピラフとかにも普通に使うし」
「へえ。それは知らなかったな」
「
長姉にそう言われて、
「
「『トマトが赤くなると医者が青くなる』と言われるトマトと、『リンゴの木のある家には病人が出ない』と言われるリンゴは、植物界最強のコラボレーション。そこに、完全栄養食と言われる卵も加わって、まさに栄養無双。これはもう、現実世界のエリクサーと言っても過言ではない」
「それは、過言だから」
と、三女の解説にすかさずツッコミを入れる
「あっ、それから、君は崩してソースと一緒に食べた方がおいしいよ。それと、パンに載せて食べてもおいしいよ」
「……おいしい」
思わずそう呟いた。さらに、バターをたっぷり塗った厚切りトーストに載せて丸ごとかじると……。
これがもう感動もののおいしさ。思わず目を閉じて天を仰ぎ、身を震わせるほど。それほどに、味わいの交響曲が口のなかいっぱいに広がる。
――こんなおいしいものがこの世にあったのか!
思わず、そう感動してしまうほどのおいしさだった。
「ふふ。ありがと。でも、気をつけてね。オーブンで焼いたからソースがすごい熱いから。冷まさずに食べると口のなか、火傷しちゃうよ。なんなら、フーフーしてあげようか?」
「い、いや、そこまではしなくていい!」
「小学生相手にデレデレしやがって。みっともないぞ」
と、こちらもリンゴの巣ごもり卵をたっぷり載せたトーストをかじりながら、
朝食が終わり、
今日は注文された部品を納品する日。車のトランクいっぱいに部品を詰め込み、いざ出発。普段なら
「今回はオレも行くからな。現場責任者として、相手がどう評価するかは知っておかないと」
そう言い張って同行を主張した。
「もっともだね。せっかく作っても相手が気に入らなかったり、予定がかわったりで全部、突っ返される……なんて言うことは、この業界では普通にあるわけだし。相手自身のことを知っておくのも、相手の評価を聞くのも、現場責任者として必要なことだ」
相手方が部品をチェックしている間、ドキドキしながらまっていた三人に向かい、相手の部長はにこやかな笑みを向けた。
「うん、素晴らしい仕事だ。これだけの量を、この短期間で作るだけでもすごいのに、この品質。どれも丁寧に作ってあるのがよくわかる。素晴らしいの一言だよ。いや、本当に助かった。ありがとう」
そう言われて、三人は大喜びだった。
自分たちの技術に自信はあってもやはり、他人にこうして認めてもらえるのは嬉しい。人前でなければ歓声をあげて飛びあがり、抱きあうぐらいはしていたかも知れない。
「なにか、ご不満な点はありませんか? あったらぜひとも言ってください。我が
相手方の部長はそんな
「いやいや、不満なんてなにもないよ。見事な仕事ぶりだからね」
「でも、なにかありませんか?」
「そうだね。まあ、強いて言えば……」
「はい!」
と、
――さすがに本気度が高いな。
亡き親の残した工場はオレが守る!
そんな
帰りの車のなかでもはしゃぎ振りはかわらなかった。
「いやあ、今回の仕事はうまく行ったなあ。『またなにかあったら頼むよ』とも言ってもらえたし」
助手席の
「そうね。この分ならお得意さんになってもらえるかも」
「
後部座席に乗っている
そう言われて嬉しかったのだろう。
「いやあ、未来は明るいなあ! ところで、姉ちゃん、どうだい? 久しぶりにまとまった金が手に入ることだしさ。たまには、どこかの店でパアッとやるってのは?」
「あら、いいわね。近所のファミレスでも予約する?」
『パアッとやる』と言われてファミレスを思い浮かべるあたりが、苦しいやりくりを強いられてきた
後部座席の
「ちょ、ちょっとまって。お祝いなら、私は
「
と、ふたりの姉は同時に、意外そうに言った。
「そう。
「な、なるほど……」
「それも、そうですね」
「確かに、
「ええ。料理だけじゃなくて、洗濯や掃除も毎日してくれているし」
「それじゃ、
「ええ。そうしまょう。
「おう! それじゃあ、
そう言って拳を突きあげ、思わず車の屋根に拳を叩きつけてしまう
「気をつけて! 車の屋根に穴が開いちゃう」
そんな長女の叫びを乗せて――。
車はお祝い目指して走るのだった。
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