一六章 お姫さま抱っこでラブホまで
その頃――。
夜の路上では
「どうです? 直りそうですか?」
「……駄目だ」
「部品に細工されてる。かわりの部品がなくちゃどうしようもない」
「細工って……いったい、誰がそんなことをするんですか⁉ はっ……もしや、どこかの国の情報部が、わたしたちを亡きものにしようと……」
「情報部に狙われるとか、どんな大物だ!」
思わずツッコむ
――いや、まさかな。この細工はプロの仕事だ。いくらなんでも、中一女子にできることじゃない。
「じゃあ、しかたありませんね」
「保険会社に連絡して引き取りに来てもらいましょう」
「そうしてください」
「あ、あれ……?」
「どうしました?」
「……バッテリー、あがっちゃってます」
「えっ?」
――まさか、
アイドル並のかわいい顔が、すべての獲物を計画通りに絡めとる地獄のクモに見えて、思わず背筋の凍る
「ええと……車は直せない。どこにも連絡つかない。それじゃ、どうしましょう?」
「どうしましょうと言われても……車中泊というわけにもいかないだろうし」
「ですよね。じゃあ、仕方ありません。どこか、適当なところに泊まりましょう。その程度のお金はあります。そうすれば、スマホも充電できます。朝になったら保険会社に連絡して、タクシーも呼んで帰りましょう」
「まあ、そうなりますよね……」
――しかし、と言うことは
そう思い、
――いやいや、なにを考えている! どこかに泊まるからって同室のはずがないだろう。その辺のビジネスホテルで別々に泊まればいいだけだ。なにもない、なにもない……。
なにもない、なにもない、と、呪文のように必死に自分に言い聞かせる。
そんな
「どうかしました?」
いきなり、キスするぐらい間近に顔をよせられて、心臓が後方二回宙返り一回ひねりを演じてしまう
「い、いや、なんでもないです!」
あわてて叫び、横を向く。夜の暗闇のせいで顔が真っ赤になっていることを見られずにすむのが救いだった。
「そうですか? それじゃ、行きましょう。都会とはほど遠い田舎町ですけど、歩いていればホテルぐらい見つかりますよ」
そう言って、
「レッツゴー!」
と、元気よく両手両足を振って歩きだす
そして、ふたりしばらく寄り添って歩いたのだが――。
田舎町のこととてそう都合良くホテルが見つかるはずもなく、いつの間にか時計の針は一二時を過ぎてしまっていた。人通りの少ない田舎町。街灯の数も少なく、夜はどんどん深みを増していく。
そんななかを妙齢の美女――それも、巨乳――とふたりきり。さすがにこのシチュエーションでは男としての本能が刺激されずにはいない。
――い、いやいや、なにを言っている! わたしは女、わたしは女。女同士でホテルを探して歩いているだけ。なんの問題もない、なんの問題もない。
そう必死に自分に言い聞かせる。
そんな
「わあっ!」
「どうかしました? 表情、暗いですよ?」
「なんで、いちいち顔を近づけるんです」
「だって、この暗さじゃ近づけないと顔、見えませんし」
と、いたって常識的な答えをする
「あ、そうか。お疲れなんですね。もうずいぶん、歩いてますもんね。それでなくても
「それは、
「わたしは体力には自信ありますから」
と、
「わかりました。わたしがおぶってあげます」
「それはまずいでしょ⁉」
「おんぶはいやですか?まあ、おぶわれたら子どもみたいですもんね。それじゃ」
と、
「ちょ、ちょっと、
「これならいいですよね。それじゃ、行きましょう」
お姫さま抱っこされているせいで歩くたび、豊かな胸のふくらむが当たる、当たる。
――ううっ。女装したまま、年下の女性にお姫さま抱っこされて運ばれるなんて……なにかに目覚めてしまいそうだ。
イケナイ予感に涙しつつ、そう思う
「あ、
ほどなくして
その建物を見た
「あ、あの、
そこは
「やっぱり、ダメだあっ!」
あまりの大声に壁はビリビリと震え、天井はパンク寸前。家の悲鳴が聞こえてきそうな轟きだった。ひとり、天を仰いで絶叫する
「やっぱり、出た。ご近所さんにもすっかりおなじみ、
「いまや近所迷惑を通りこして、近所名物だもんね」
「なにを落ち着いてるんだ、お前たちはあっ!」
そんな妹ふたりに姉の叫びが爆発する。
「そんな場合じゃない! やっぱり、気になる! オレは姉ちゃんたちを探しに行く!」
「どこに?」
「どうやって?」
妹ふたりが同時に尋ねる。
妹ふたりの問いはいたってもっともなものであった。しかし、そこで『ぐっ……』と言葉に詰まって考え込むのはただの凡人。
「走って!」
迷いなくそう答えた。
「根性で探す!」
うおおりゃああああっ! と、猛々しい気合いの声をあげて
「……行っちゃった。ほんとに、どこを探すつもりなんだろ?」
「だいじょうぶ。
「昔っから『将来、警察犬になれる』って言われるぐらい、捜し物は得意だったもんね」
残されたふたりの妹は並んで姉の後ろ姿を見送っていたが、
「あれから、八分四二秒」
「三〇分以内に出かけていった。賭けは
「明日のプリン、ゲット! わたしに未来予知の能力で勝とうなんて一〇年、早い」
グッと拳を握りしめ、力強くそう宣言する
「でも、さすがにこの速さは予想外。二〇分ぐらいはもつと思っていた」
「よっぽど、気になってたんだね」
「
「
妹の問いに――。
「姉妹ハーレム、上等」
「
「
「あたしはまだ小学生だからなあ。五年もしたら考えてもいいかも」
「わたしはいますぐ参加する。中学生という立場を生かして、おとなをからかえるのはいまのうち。特権は使わないともったいない」
「
獣のごとき咆哮をあげて夜の町に駆けていく姉を尻目に――。
妙に呑気な会話を交わすふたりの妹なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます