一五章 謀略の心愛
「……姉ちゃんたち、遅いな」
時刻はすでに九時をまわっている。とっくに夕食をすませ、
そんな時刻。
もちろん、『まわれるだけまわってくるから遅くなる。多分、夕食には間に合わない」とは言われている。だから、七時、八時頃までならとくに気にもしていなかった。だけど、さすがに九時を過ぎても帰ってこないなんて……。
「いくら、日本の会社が残業大好きだからって、こんな時間だ。さすがにもう、やってないと思うんだけど……」
そもそも『深夜残業』というのは貧乏クジを引かされた下っ端のやることで、プレゼンの対象となるような幹部連中には無縁のものではなかったろうか。だとすれば、こんな時間まで営業にまわっている理由などどこにもない。
「……まさか、なにかあったんじゃないだろうなあ」
「
と言うものだろう。
その
「
「それが戦闘民族の魂。生まれついての宿命」
「戦闘民族、言うな!」
三女の解説に
ふう、と、息をついて気を落ち着かせてからつづける。
「心配にもなるだろ。もう九時だぞ。いくらなんでも営業にまわってるっていう時間じゃないはずだ」
「だいじょうぶだよ、
「おとなだから心配なんだ!」
とは、さすがに小学五年生の妹相手には言えない。
すると、
「ふたりは帰ってこない」
「どうして?」
「帰ってこれないよう、車に細工しておいた」
「なんだと⁉」
目を丸くして叫ぶ
「わたしも技術屋の娘。それぐらい、楽勝」
「お前、いつの間に……って、ちがう! そうじゃない! そんなことしてなんのつもりだ⁉ まちがいがあったらどうするんだ⁉」
「問題ない」
「問題ないって……」
「
「そ、それはそうだけど……」
理路整然とした妹の発言に、
「い、いや、だけど、やっぱり、まずいだろ! その……こういうことは」
「なにがまずい? 独身で恋人もいないおとな同士。合意の上で関係をもつならなんの問題もない。妹ならむしろ『あのゴリラなお姉ちゃんもこれでようやく嫁に行ける』と喜ぶべき」
「そ、それは、そうなのかも知れないけど……」
絶対に、なにかまちがっている。
そうは思うのだが、なにをどうまちがっているのか、言葉にすることができない。あまりのもどかしさに頭をかきむしる。
そんな次女を見て心配になったのだろう。
「落ち着いて、
「オレの手はミキサーか⁉」
「とにかく、落ち着いて。ふたりとも、スマホもってるんだから、なにかあったらすぐに連絡つくよ」
「……あ、ああ、そうか、そうだったな」
ようやくその単純な事実を思い出し、一息つく
しかし、そんな
「わたしの計画に抜かりはない。ふたりのスマホも使えなくしておいた」
再び、グッと親指を突き出し、自慢気。
「お前なあっ⁉」
そこまでするか⁉
と、そう叫ぶ
「問題ない。ちゃんと現金をもって出かけたことは確認済み。どこかのホテルにでも泊まって夜明かしするはず」
「どこかのホテルって……こんな田舎町じゃいきなり泊まれるホテルなんて」
「ラブホテルぐらいしかないよね」
「それこそ、計画通り。きちんと結ばれたならなにより」
「なによりって……いや、それはちがうだろ!」
「妬いてる?」
「な、なんで、おれが妬くんだよ⁉」
「
「バ、バカ言え! なんで、このオレがあんなか弱い男を気に入るんだ⁉ ただ、親父とお袋の残した工場を守るために必要だから追い出さなかっただけだ!」
だから、女装させただろ!
ムキになってそう主張する
「だったら、なんの問題もないはず。妹として姉が嫁になれるよう応援してあげるべき」
「そ、それは……」
ああ、もう! 徒、
いかに
「あー、あー、そうだよ! ふたりともいいおとななんだ。ラブホでもどこでも行って、好きなようにすればいいさ!」
オレには関係ないからな!
その一言を残し――。
ドスドスと足音高く自分の部屋に向かう
残された妹ふたりはその後ろ姿を見つめたまま言いあった。
「賭ける?
「さすがに、三〇分ぐらいはもつと思うけど……」
「乗った。わたしは三〇分もたずに飛び出す方に賭ける」
「OK。それじゃ、いつも通り明日のおやつのプリンね」
「うん」
自分の知らないところで――。
かわいい妹ふたりに賭けの対象にされている
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