一三章 営業開始!
「営業に出る?」
「そうです」
さすがに成人女性の部屋だけあって、小学生の
その部屋のなかで
「この十日間で
そう言われて
「もちろん、私たちの目的は『空飛ぶ部屋』を実用化することです。しかし、その前にまず日々の生活費を稼げるようにならないと話にならない。そうでしょう?」
「そ、それはまあ……」
「ですから、まずは各メーカーをまわって下請けの仕事をまわしてもらわないといけない。
――なにより……。
――早く仕事に没頭できる状況を作らないと、神経がもたないからな。
アイドル顔負けの美人四姉妹と同居という、夢のようすぎて悪夢になりかねない状況を思い、胸のなかで溜め息をつく
「それは、そうですけど……」と、
「でも、どこに営業にまわるんです? 父と取り引きのあったメーカーには全部、当たりましたけど、どこも相手にしてくれなかったんですよ?」
「私にも前のチームにいた頃の顔見知りはけっこういます。私たちも活動当初は全然、仕事がなくて、全員で営業にかかりきりでしたからね。仕事が増えてからは親しくしてもらえる相手もできました。それらのメーカーを片っ端から当たってみようと思います」
「ちょ、ちょっとまてよ!」
今度は
「お前、いまの自分の状況、わかってるのか? いまのお前は『女』なんだぞ。女になった姿を前の知り合いに見せてもいいのか?」
自分が女装を住み込みの条件にしたくせに、と言うより、『したからこそ』気になるのだろう。
しかし、
「かわまない」
「お前……」
「
「とんでもない! 両親の残した工場を守るためならなんだってやります!」
「オ、オレだって……」
姉妹の言葉に――。
「私も同じです。私のプライドはあくまでも『空飛ぶ部屋を実用化する』という一点にあります。空飛ぶ部屋を実用化し、この災害列島でひとりでも多くの人が安全な暮らしを送れるようにする。それこそが、私の役割であり、プライド。そのためなら、女装姿を見せるぐらいなんでもありません」
「
突然――。
そんな
「
「……あ、ああ、はい。よろしくお願いします」
――姉ちゃん、感動ものと熱血ものが大好きだからなあ。
と、少々、姉の思考にあきれつつ、
――よおし! オレの技術のすべてを見せつけて顧客を捕まえやるぜ!
本人も燃えにもえている
「で、でも、ふたりとも、忘れないでください」
考えてみれば、技術畑一筋のせいで女性に手を握られたり、握ったりするなど中学のときのフォークダンス以来。前のチームにいたふたりの女性、
それだけに、引きはがすのは惜しい気もするし、さわるのも悪いような気もするが、大切な骨の安全にはかえられない。
「営業と言っても、頭をさげてまわって仕事をもらいにいくわけじゃない。そんなことをしたら足元を見られるだけだし、都合が悪くなればすぐに捨てられる。私は、私の技術も、
今回の営業の目的は、私たちのしようとしていることを理解し、共感し、『本気で同志になってくれる』相手を見つけることです。そのためにはなによりもまず、私たちのしようとしていることを説明し、『仲間』となる相手を探していると言うことを示すことです。その点を忘れないでください」
「なるほど!」
と、
「わたしが
「そうです。そう思ってくれる相手を探すんです」
「わかりました! もともと、わたしだって大切な妹や
「ああ。オレだって親父譲りの技術、安売りするわけにはいかないからな。必ず、おれの腕で相手の心をつかんでみせる」
「その意気です。明日から一気に各社をまわりましょう」
「はいっ!」
「おおっ!」
襖一枚へだてた部屋の外、廊下の上に小さな陰がふたつ。
「
「多分、だいじょうぶ」
「多分って……」
『自分たちが姉たちの世話をしている』という自負をもつ中一と小五の妹ふたりは、姉たちを心配してちゃっかり聞き耳を立てていたのだった。
「名前も実績もない町工場が、そんな偉そうな態度で仕事なんてもらえるものなの?」
「普通なら無理。でも、うちの姉たちには勢い任せにすべてを木っ端微塵にして突き進む馬力がある」
「……その暴走力が一番の心配なんだけど」
そう言って――。
四姉妹随一の常識人である
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