一〇章 三女と同盟
こうして、
近所の人たちには『
――やっぱり、女になってよかったな。
男だったらこうはいかないだろう。同じように『大学の先輩』として紹介されたところで、こうもすんなり受け入れられることはなかったはずだ。
好奇の目で見られるか、もっと悪ければなにかと警戒されたことだろう。なにしろ、
そして、女になってみてわかったのが、男が女性の振りをするのは意外と簡単、と言うこと。男が女言葉を使ってスカートをはいていたら変態呼ばわりされるが、女性が男言葉を使ってジーンズをはいていても問題はない。普通に女性として認められる。外見に違和感さえなければ無理して口調をかえたり、スカートをはいたりしなくても女性として通用してしまうのだ。
一人称にしても仕事の場では『私』が当たり前なので、自分のことをそう称するのも違和感はない。もちろん、立ち居振る舞いは男のままなのだが、なにしろ
と言うわけで、もともと女顔で声も高い
もちろん、男は男なので、家族でもなければ恋人でもない女性との同居には気を使うわけだが、以前のシェアハウスで女性との同居経験があるので慣れている。その点もとくに問題はなかった。
「居候の身で家事の手伝いもしないのはやっぱり、気が引けるよなあ」
と、
女性の振りはしていても男は男。女性の下着を見たり、ふれたりするなどできないので洗濯は論外。では、トイレや風呂の掃除と言った力仕事を、と思っても、女性が使ったあとのトイレや風呂を男が掃除するというのもなんとなく微妙。そもそも、『力仕事』ということになれば
なにより、家事担当の
「家事の手伝いなんて気にしなくていいんですよ。
結局、自分のできることを探した結果『買い物の際の荷物持ち』と言うことで落ち着いた。
その日も買い物に出かける
「
「
「『男の娘』って言うにはおとなだから、『
「……なるほど」
――腐女子、ツンデレ、男の娘……。日本語ってなにかすごい。
つくづくとそう思った。
ともかく、
人混みのなかをいつものクールな無表情顔で買い物メモを見ながら歩く
もっとも、ふたりのそんな様子はふたりの姉、
ともかく、
――まだ一三歳。お菓子やら、かわいいグッズやら、ついつい欲しくなるものもあるだろうにな。
そこをグッとこらえて必要なものだけを買う。その姿は見ていてホロリとさせられる。
――それにしても、やけに豆腐が多いな。やっぱり、貧乏所帯だと豆腐は重要な食材なんだな。
以前のチームでも
他人様の家を『貧乏所帯』と呼ぶのも失礼だろうが、事実として
――成長期の子どもが豆腐ばっかりって言うのもさびしいしなあ。早くなんとかしてやらないと。
食生活はおいておくにしても、貯金を切り崩しての生活がいつまでもつづけられるはずがない。きちんと工場から収入を得られるようにするのは急務だった。
もちろん、
その姿にはやはり、胸を打たれるし、なにより、
――以前の知り合いに連絡して、仕事をもらえるようにしないとな。
改めて、そう決意する
買い物を終えて帰路についた。その途中、
「
「公園?」
「この近くに大きな公園がある。池もあって、タダでボートに乗れる」
「へえ、ボートか。それもいいな」
――ボートに乗りたいなんて、
「
「なんだ、いきなり⁉」
「わたしたちの誰かと結婚すれば、女装しなくても普通にうちにいられる」
言われて、
「その手があったか! ……って、いやいや、居候を正当化するために結婚するなんて、そんな失礼なことはできないから」
それに、いまの私は女だし。
そう言う
「いまどき、同性結婚なんてめずらしくもない」
「いやいや、それはあくまで法律上のことで、心理はまた別だから」
「
「行き遅れって……そんな心配はないだろう。ふたりともまだ若いんだし、あれだけの美女なんだから。その気になれば結婚相手なんてすぐに見つかるはず」
「それが、そうでもない」
「そうでもない? どうして?」
「たしかに、
「でも?」
「筋肉はゴリラ。その事実を知った途端、みんな、はなれていく」
「……ああ」
と、
「
「……ああ」
それもまた、納得できる話だった。
「
「……そうか。妹として、お姉さんたちが心配なんだね」
「うん」
「この気持ちはわかるつもりだよ。でも、やっぱり、そんなわけにはいかないよ。
「普通に恋愛しての結婚ならいいでしょう?」
「恋愛って……」
「お姉ちゃんたちのこと、きらい?」
「そんなわけないだろう!」
「だったら、そうなる可能性だってあるわけでしょう? これから、一緒に暮らしていくんだからお互いに知り合うことも多い。
「……いや、したいとか、したくないとか以前に考えたことがないから」
空飛ぶ部屋を作る。
それを自分の天命と定めて以来、他のことを考えることなんてなかった。
「そろそろ考えた方がいい。もう若くないんだし」
二六歳の身で『若くない』と言われるのはショックだが、
――一三歳から見れば二六歳なんて『おじさん』かもなあ。
と、納得もしてしまう。
――そうだよな。おれもいつまでも二〇代っていうわけじゃない。あと四年で三〇になるし、三〇と言ったら世間的にも立派に『おじさん』だよな。真剣に考えた方がいいかも。
「
「そう……だね。
「それじゃあ」
と、
「これから、わたしたちは同盟相手。一緒にがんばろう」
「うん。よろしく」
「それで、ふたりとも気に入ったら、どっちも嫁にしてしまうのもいいし」
「なんで、そうなる⁉」
「いっそのこと、四姉妹全員モノにして姉妹ハーレム作る?」
「だから、なんでそうなるんだぁ⁉」
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