九章 女になりました
そして、翌日の朝。
小旅行から帰ってきた
その見ず知らずの女性と、その横でなぜか落ち込んだ様子の
「ええと……。どちら様でしょう?
尋ねる
「……
「
生真面目に頭をさげる
「いや、あの……
「
「それでこそ、
ひとり、まるでわかっていない
「えっ、なにが? なにかまちがった?」
――本気でわかっていないのか。
と、
「ほら、思い出して、
末っ子の言葉に
「えっ、
ようやく気付いたらしい
「
「……その
「どうしたんです、なにがあったんです、いきなり女性になってるなんて⁉ まさか、
「姉ちゃんは、オレをなんだと思ってるんだ!」
「
「落ち着かなくていい。もっと、暴走して」
「と、とにかく、落ち着きましょう。ちゃんと説明しますから」
一同はダイニングキッチンに移った。
「あ~。相変わらず、
と、幸せそうな様子で『ほう』と、息をひとつつく。
そうしているとさすが、おっとり系の正統派美女。茶道をたしなむ、お淑やかな令嬢のように見えてくる。
「やっと、落ち着いたね。もう、
と、まだ小学生の末っ子がたしなめる。
その横では、三女の
「とにかく、説明しますと……」
昨日の夜、
『男が一緒にいると姉ちゃんや妹たちに悪い噂が出かねない! だから、女の振りをしてもらう!』
というものだった。
「それで、了承して、
「は、はあ、なるほど……」
もともと、端整な顔立ちだし、声も男にしては細くて高い方。女性にしては若干、肩幅が広いかと思いはするが、それも『おかしい』と思うほどのものではない。そもそも、すぐ隣に
「……長いカツラをかぶせて、胸にパッドを入れさせただけなのに、オレより女らしくなった」
それが、
「でも、
「し、仕方ないだろ! 姉ちゃんたちに悪い噂を立たせるわけにはいかないんだ。それぐらいはしないと……」
「そんな。悪い噂なんて考えすぎよ。住み込みの従業員ひとり雇うだけじゃない。それなのに、女装させるなんて失礼だわ。第一、
「そ、それはそうなんだけど……」
その点は
「いえ」
と、口をはさんだのは当の
「女装ぐらい、かまいません」
「そうなんですか⁉」
「ええ」
「それって、もしかして……もともと、そういう趣味?」
「ちがいます!」
「
「それでこそ、
「おれとしても、
「おれっ子は
「あ、ああ、そうだった……じゃなくて、そうでした」
コホン、と、咳払いしてから言い直した。
「私自身、女性のなかに男ひとりいることで色眼鏡で見られるより、この方がいいですから。どうせ、女装していることがバレてまずい相手もいませんし」
「彼女とかいないの?」
「いない。いた試しもない。子どもの頃から技術畑一筋だったから、女性と付き合ったことなんてない」
「彼女がいたら、男のままでわたしたちと同居する方が問題だと思う」
とは、
「でも、ご両親は? 息子が女になってしまったなんて知ったら悲しむんじゃ……ハッ! まさか、
「うちの親は健在ですから!」
無自覚に思考を暴走させまくる
「別にこんなこと、両親にいちいち伝える必要もありませんし。第一、ファッションとして女装しているだけであって、中身まで女になるわけじゃないですから。問題ないですよ」
その言葉に――。
三女の
「そうですか? まあ、人の趣味はそれぞれですから。
「仕事のためであって、趣味じゃないですから!」
度重なる
「とにかく、これから住み込みの従業員として働かせてもらいます。改めて、よろしくお願いします」
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