第14話 興味があるなら
『先輩はわたしのこと……どう思ってるんですか』
『どうって……。なんで急に、そんなこと』
制服に身を包む
一方、見下ろされる側の俺は思うように身体が動かなかった。
っつうかなんで先輩って。
しかもこれ、昨日と同じシチュエーションじゃっ?!
『ねえ。本当は気付いてるんでしょう? わたしの気持ちに』
そう言うと
『いや……ちょっ。なんで、顔?!』
『実力行使です。告白はしない文化ですから』
そして徐々に俺の視界が彼女の小さな顔で埋め尽くされ、やばい、このままじゃ唇が触れ——
たと思った瞬間「はぅっ」と目が覚めていた。
「だと思った……」
どうやら仰向けで眠っていたらしい。
つまり視界を覆うのは当然ながら
ただ、心臓はしっかりとドキドキしまくっていた。
「くそ。なんで
どうせ夢なら
はぁぁと大きめの溜息を吐き出しながら誰へともなく独り言ちると、指先を伸ばし手早くスマホのアラームを止めゴロリと寝返りを打つ。
マジで寝ても覚めても、とはこのことだ。かなり重症なのかも……。
昨日の晩は新作小説のプロットを仕上げるべく夜更かししたからなぁ。
実質寝たのは5時間ほどだろうか。よく起きれたものだと自分に感心しつつ、眠りが浅いと夢を見るなどと言うが本当のことらしいと独り納得する。
寝ころんだままの体勢で両手を結びながらぐぅ〜っと背筋を伸ばすと、ふぁ〜と大口を開けて大きな欠伸を吐き出しゴロリとうつ伏せになる。
薄暗い部屋、カーテンの隙間から差し込む光がやたらとギラギラして見えた。アラーム通りならもう昼だ。
この時間に起きた理由はひとつ。
どうやら夢のお陰で普段覚醒の遅い脳も既に活発に動いているらしい。
ならもう少しゆっくりしてても大丈夫だろう。そう思いまたゴロリと仰向けになる。
昨日の朝、この部屋に
さっきの夢みたく俺の上に
彼女の笑顔を思い出すと、また小気味よく心臓が音を立て始めた。
ま、顔でも洗お。
と、自室のドアに近づくに連れ外から聞こえてくる騒々しい音。母さんは今日も仕事だし、なら
ドアを少しだけ開くと、俺はまず顔だけをひょこっと出し
というのも
すると自室の対面にある洗面所が閉じられている事に気付く。震源はドアの奥か、ガタゴトと聞こえる勢いのよい脱水音が鮮明になった。
廊下に出ると
そこで遅まきながら理解する。
なるほど、今彼女は掃除の最中なのだ。
であれば今はリビングか、それともベランダかもしれないな。
ま、なんにしても俺はまず顔を洗わねえと。
そう思い、洗面所の扉を開けた次の瞬間だった。眼は強制的に見開かれ、同時にヒュッと息を吸い込んでいた。
透き通るような白い肌には一切の贅肉が見当たらなかった——。
そして可愛らしいフリルの施された薄ピンクの上下下着は思いの
つまり、なぜかそこには
しっかりとクビレの効いた腰回り。
彼女は美しく丸みを帯びたお尻を突き出すかのように背筋をピンと張り、
そして、俺に気付いた
やってしまった……。
この前ノックするって約束したばっかじゃねえかっ……。そんな激しい後悔と共にバクバクと激しく音を立てまくる心臓。
そうこうしていると、カチャとドアが開いた。
視線を上げるとドアの隙間からひょこっと顔を出した
「ごめんね
「っ!?」
謝るべきなのはこっちなのだが、そもそも言葉が全く入って来なかった。というのもちらりと視界に入る彼女の肩にはブラ紐が……。
「い、いいから! まず服を着てくれっ」
俺が顔を手で覆い隠すと、「ご、ごめんっ」と申し訳なさそうな顔をして彼女はパタンとドアを閉じた。
まだ春先だというのに今日はたしかに暑い。
掃除で汗をかいてしまった彼女は俺との約束の時間も押している為、洗濯機を回している
ちなみにいま俺たちは大通りを歩いていた。
「気にしてないからもういいよ。わたしだって、その……
いや、全然オアイコじゃないんだが。
そうは思うものの、だからといって謝るほか出来ることもない。とはいえ謝らずには居られない。そんな感じだ。
「そんなことより、昨日は上手く書けた? ぷろっと? だっけ」
「まあ、なんとか。っつってもいつも通り
「ふうん。たしかにあの部長さん、厳しそうだもんね」
「言っても売れっ子の作家だからな。増版だってしてるし、こと執筆に関してだけはマジで尊敬してるんだ」
それ以外は一切尊敬していないことを言外に伝えておく。
ちなみに
「
「別にいいけど。でもガチガチの戦闘ものだし多分つまんないと思うぜ。それにまだプロットの段階だから当分先になるだろうし」
「いいよ、待つから。それに
その屈託のない笑顔に自然と頬が緩みつつ、俺の方も昨晩の話を掘り返すことにする。
「ちなみに、本気でやるつもりなのか?」
というのも昨日、母さんと三人でいる時に彼女がなんと自炊をしたいと言い出したのだ。
まあそういう素振り自体は見せていたものの、それにしたってあの食材皆無の冷蔵庫を見てのことなのだから、なかなかに
「うん。急に三食全ては無理だと思うけど。徐々に、ね」
「そっか。でも母さんも言ってた通り、無理しなくていいんだからな?」
「大丈夫。居候させてもらってる身だし、少しくらい何か役に立たないと居心地が悪いもの」
「だから、んなこと気にしなくていいんだってば。それに今日だって掃除してくれてたろ? もう充分だと思うけどな」
「ありがと。でもそういうわけにはいかないの」
次いでニコッと無邪気な笑みを向けられ、こうなれば何も言い返せない。
過去を遡らなければほんの数日の付き合いではあるものの、そういう点における彼女の生真面目さはもうある程度分かったつもりだ。
逆に風邪を引いてでもやり兼ねない怖さはあるが、そここそ俺が注意すべきところなのだろう。
そんな折、ふと通り沿いにある施設が目に入る。
一年程前に出来たフットサル場。
見上げるほどの高さでもないがなかなかに立派な建屋で、看板を見る限り一階と二階にそれぞれ1面ずつコートが設営されているらしい。
そう言えば
そんなことを思い出しながら入り口の自動ドア越しに中の様子を覗き見ていると、
「フットサルだっけ。好きなの?」
「いや、フットサル自体はやったことないんだけど。実は俺、中学の途中までサッカーやってて。まあなんつうか、ちょっと懐かしいなぁと思っただけ」
そう言うと明香ちゃんは両手を背中の後ろで結びながら、俺を覗き込むように腰を折った。
「興味があるなら覗いてみる?」
「いやっ、いいよ。そもそもボールだって長いこと蹴ってねえし……。ありがとう、行こうぜ」
言うや歩き始めたのだが。
一方の
「どうかしたのか?」
「サッカー、やってたんでしょう? もしかして嫌いになった、とか?」
柔らかなのに思いの
それは部室で演技した時みたいに、まるで彼女が俺の奥にいる俺を見つめているように感じた。
俺はすぐに答えを出せなかった。
そもそも好きだったのかすら分からない。
ただ、こうやって気になりはするのだから多分嫌いではないんだろう。
「ねえ、少しだけ見学してみない?」
あくまで提案の
言い終わる前から既にウィーンと自動ドアが開いており、
次の瞬間、彼女は施設の中へ入ってしまっていた。
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