12話 戦端
ティ・ルフ王・ヘラクの命じた境界門の開門命令は、兵士を大いに動揺させた。そもそも境界門は近年、北部に対する戦闘行為を積極的に行っていた南部側を食い止めるため、ティ・ルフ女王ルネアと法王ユリアスが命じて作らせたものだ。
開門を命令できるのは、法王ユリアス、ティ・ルフ女王と国王のみ。それは南部勢力の侵入を許すことに等しい。
一軍が丸ごと通行できるほど巨大な境界門。兵士たちはうろたえながら、鍵と何重にも巻かれた鎖を外し、門の扉を開いた。
ダムナティオは顎で兵士に合図する。その瞬間、境界門が開く様子を見ていたヘラクが、身体の正面からざっくりと斜めに斬り落とされた。
「……はっ……?」
起きた出来事が理解できない、という驚愕の表情のまま、ヘラクの身体が崩れる。ティ・ルフ王国軍の兵士が止める間もなく、国王は血を飛び散らせて倒れ伏せた。悲鳴と怒号が行き交う混乱のなか、ダムナティオだけが冷たく死体を見下ろしている。 斬り伏せた兵士は剣から血を払い、ダムナティオ皇帝の傍に控えた。
「ご苦労。世間知らずを騙すのは、手早く済んで助かるぜ」
先ほどまで周囲に見せていた、『希望に溢れる若き王』らしき顔は消え失せている。
「……お、おま……え……は……」
「おや? まだ息があったか。感謝するぜ、愚かで目立たない王様。これで、やっと戦線を進められそうだ」
致命傷を負って動けないながら、絶望と怨嗟を滾らせて睨み上げるヘラク。ダムナティオは、笑いながらヘラクの頭を何度も踏み潰した。全くの容赦がない行為により、骨が砕ける鈍い音が鳴る。帝国側の兵士は戦慄し、境界門を護っていた北部側の兵士は怒りの声を上げた。
「いいぜ。やっと始まるってわけだ、三回目の北南戦争!」
ダムナティオは高らかに嗤い、進軍を命じる。
こうして、北部軍と南部軍の全面的な衝突が起き、のちに第三次北南戦争と呼ばれる戦いが勃発した。国王ヘラクは乱戦の最中に消え、死体も帰らなかった。
境界門によって守られていた北部の国々は、ダムナティオ皇帝の苛烈な侵攻によって焼かれ、奪われていく。その魔の手は、四〇〇年の栄華を誇ったティ・ルフ王国にまで迫る。
ティ・ルフ王国の王都、トリアイナの街中。
第三次北南戦争の開戦をダムナティオ皇帝が宣言した晩、金瞳の男が立っていた。男の前には、無残に斬り刻まれた死体。死体の主は付近に住まう住人のようで、武器は持っていない。
金眼の男は突然、ふらふらと揺らいだが、何とか堪えるようにして立ち止まる。血に塗れた剣を振り上げ、亡骸に向かって再び剣を突き立てた。
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