幼馴染の告白

 俺たちは料金を支払った後『ナポレオン』を出た。


「はぁー美味しかったぁ。世は満足じゃ…」


 夕菜はお腹をポンポンと叩きながら俺の隣を歩く。


 男友達のように気を使わなくてもいいが、女の子の魅力もちゃんと持っている。…本当にこいつは不思議な奴だ。


 店を出た俺たちは家に帰るべく帰宅の途に就いた。俺と彼女の家は同じ方向にあるので途中までは一緒だ。


 俺たちは商店街を出て住宅地の間にある小道を並んで歩く。その道の途中にある公園まで来た時、夕菜が突然公園の方を見て立ち止まった。


「ねぇ、ちょっとブランコに乗っていかない?」


「えぇ…」


 またこいつは突拍子のない事を…。


 流石に高校生にもなってブランコに乗るのは恥ずかしいので、俺は断わった。だが夕菜はそう言うが早いか走って公園に入り、ブランコを占領するとその上に乗って立漕ぎを始める。


 俺はそんな彼女にやれやれと思いつつも、公園に足を踏み入れブランコに近寄っていく。


 夕菜はかなり勢いを出してブランコを漕いでいた。そのせいで彼女のスカートがヒラヒラと中身が見えそうなぐらいめくれている。


「おいおい、お前スカート穿いてるんだからちょっとは加減しろよ」


「別によーへーなら見られてもいいよ。実はね、今日…エッチなパンツ穿いてるの♡」


「おい!? 尚更ダメだろ!」


「おっ!? 興奮しちゃった? うっそぴょーん! ちゃんとブルマ穿いてるから見えても大丈夫ー! よっーと!」


 彼女はブランコを漕ぐ事に満足したのか、そのまま飛び降りて華麗に地面に着地し、決めポーズを決めた。


「夕菜選手100点!!!」


「…満足したか?」


 俺は着地した彼女に近寄って行った。しかし彼女はそこで思いもよらぬ行動をとった。


 なんといきなり俺を抱きしめたのだ。彼女の柔らかい感触が俺の身体を包み込み、女の子特有の甘い香りが鼻孔を通って脳を刺激する。


 俺はどうして彼女がこのような行動をとったのか理解できずに困惑し、フリーズする。


 彼女はフリーズした俺の耳元に口を寄せてこう囁いた。


「ねぇ、よーへー。とっておきの事を教えてあげよっか?」


「とっておきの事?」


「実はね、よーへーとちっちゃい頃に結婚の約束をしたの…アレ、実は私もなんだ!」


「はぁ!?」


 俺はとんでもない事を言い出した彼女に驚愕する。だがすぐに「夕菜の事だからまた俺をからかってこのような事を言っているんだな」と、そう思い至った。


「あっ、どうせまたいつもの…」


「これは嘘じゃないよ!!!」


 ところが予想に反して夕菜は真剣な表情でそれを否定した。その力強い目で俺の目をまっすぐに見つめてくる。


 当たり前の話だが…彼女は現在俺に抱き着いているので双方の顔の距離は近い。俺は彼女の綺麗な顔を間近で直視し、思わず頬が紅潮してしまった。


 彼女は俺に抱き着いたままの態勢で言葉を続ける。


「よーへーと私が再会した時…あなたは記憶を失ってた。だからあなたに余計な負担をかけさせたくなくて黙ってたの。でもね…今日、あの子がそれを言っちゃった。だから…絶対に私も言わなくちゃと思ってたの。私もね…あなたの事が好き。昔からずっと!」


 彼女の告白を聞いた俺の頭はグルグルと回り混乱する。


 …まさか日向だけじゃなくて夕菜とも結婚の約束をしていたなんて、当時の俺はどれだけ節操なしだったんだ。過去の自分に嫌気がさしてくる。


 加えて彼女は今も俺の事が好き。2年間一緒に行動していて俺はまったくそれに気が付かなかった。


 彼女に「陽平大好き!」とか「私たち付き合っちゃう?」と言われても冗談だと思い適当にあしらってきた。まさかそれが彼女の本心だと思いもよらずに。


「鈍感さんだね。よーへー、よく考えてみて。普通好きでもない男に胸を押し当てたり、こうやって抱き着いたりする? 私がここまでするのはあなたが好きだからだよ。これで…嘘じゃないって分かって貰えた?」


 彼女は自分の気持ちをアピールするかのように、その大きな胸を俺に押し当てて来る。ここまで言われれば、鈍感な俺も本当だと思わざるを得ない。


「ねぇよーへー。私たちこのまま付き合っちゃおうよ。本当は結婚…と言いたいところだけど、流石にまだ早すぎるし、まずはお付き合いからという事で。今日転校してきたよく分からない娘と付き合うよりはさ、気心の知れた私と付き合う方が良いと思わない? 私、こう見えて結構尽くすタイプだよ?」


 夕菜が引き続き俺の耳元でそう囁く。

 

 俺の脳はまだ混乱から立ち直っていなかった。彼女の言葉が耳に入るたびに頭がフラフラする。今日1日で色々な事がありすぎて俺の脳はとっくに処理の限界を迎えていた。


 俺は混乱したままの頭でなんとか言葉を絞り出し、夕菜に返答する。


「ごめん、夕菜。お前の気持ちは嬉しいんだけど…ちょっと考えさせてくれないか?」


「…ありゃ、好感度が足りなかったかな? それとも…よーへーはあの娘の方が好みとか?」


 口調こそ軽いが、夕菜は先ほど『ナポレオン』で見たような…まるで深淵に飲み込まれるかのような瞳で俺を見つめてくる。


 それはまるで「俺が日向の方に行くのは絶対に許さない」と言っているように思えた。


「そうじゃないよ。別に日向の方が好きだから…とかそういう理由じゃない。ほら、俺今日1日で一気に2人の女の子から告白されたからさ、コミュ障で陰キャの俺には色々とキャパシティーオーバーな訳。だから…その、考えを整理する時間が欲しい」


「…分かった。確かに童貞のよーへーには刺激が強すぎたかもね。急にライバルが現れたから、私もちょっと焦りすぎちゃったみたい。答え…決まったら聞かせて。じゃね、また明日」


 彼女はそう言い残し、公園から走り去って行った。俺には彼女の後ろ姿を見送る事しかできなかった。



◇◇◇


まさかのもう1人の幼馴染も陽平の事が好きだった。陽平は今後どう行動するのか?

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