幼馴染と放課後
昼休みが終わって5限目に突入した。俺は授業中もずっと考え事をしていた。もちろんその内容は幼馴染2人の話が噛み合わない事である。俺は必死にそれがどういう事なのか考えた。考えたのだが…答えは全く浮かんでこなかった。
考え事をしているうちに5限目が終わり、6限目も終了し、気付くと放課後になっていた。クラスメイトたちが「また明日」と帰宅する声が聞こえる。
俺はやはりもう1度日向から話を聞いてみようと1組の教室に向かった。
しかし日向は担任の教師に呼ばれて職員室向かったと1組の生徒から教えられた。しかも結構な長話になるようだ。彼女は転校してきたばかりなので色々と連絡事項があるのだろう。
仕方がないので今日は話を聞くのを諦めて帰る事にした。別に今日でなくても、明日から毎日会えるのだからそこまで急がなくてもいいだろう。明日以降、暇な時間を見計らって聞けばよい。
俺は教室に戻って鞄を取り、昇降口で靴を履き替えて運動場に出る。
「おっすー! 今帰り?」
校門を出た所で誰かから声をかけられた。振り返ると夕菜が校門にもたれ掛かり、こちらに手を振っていた。
…なんとなくだが、夕菜が待っているだろうなという気はしていた。
彼女は地べたに置いてあった自分の鞄を持ちあげると俺の隣にやってくる。
「せっかくだし、ちょっと寄り道して帰ろうよ!」
夕菜はそう言って俺の腕を取ると自分の腕に絡めて来る。その際に彼女の大きな胸が俺の腕に押し付けられた。
制服越しにボヨンと柔らかい感触が俺の腕を襲う。俺はそれに赤面した。彼女と行動を共にするようになって長いが、こういうのには未だに慣れない。
「おっ? 興奮しちゃった? じゃあもっとやっちゃおうかなぁ~? それぇ~ウリウリ~!」
彼女は俺の反応を見てニヤリと笑うと更に強く胸を押し付けて来る。先ほどよりもはっきりと胸の感触が俺の腕に伝わった。
こいつは本当に…俺をからかう事に全力をかけてくる。
「こらやめろ! というか暑いから離れろ!」
「え゛っ…。私の胸を弄んだのに…よーへーは私を捨てるって言うの!?」
「人聞きの悪い事を言うなよ!? 夕菜が勝手に押し付けてきただけじゃないか!?」
「そうだっけ? なんかよーへーの方から私の胸を揉んできたような…?」
「してない! 俺の両手はここにあるだろ!」
「冗談冗談。よーへーは相変わらず初心だねぇ~。でも…そんな純情なよーへーのスマホにはドスケベなモンスター娘のニッチなエロ本が保存してあるんだよね? …ド変態♡」
「なんでそれを知ってるんだ!?」
「純情なのに変態とはこれ如何に?」
彼女はケラケラと笑いながら俺から離れた。どうして夕菜が俺のスマホにモン娘のエロ同人が保存してある事を知ってるんだ?
「実はね、今まで隠してたんだけど私は凄腕のハッカーなの。その気になればよーへーがスマホを見ている最中に横から覗き見してその内容を知る事だって可能だよ! 『黄昏のスーパーハカー』と呼んでね!」
「それハッキングじゃなくね!? 覗いてるだけじゃん!?」
彼女はいつものように適当な冗談を言いつつ俺に絡んでくる。…しかし夕菜に俺のスマホの秘蔵フォルダを見られていたとは…用心しておこう。
俺と彼女はそんなしょうもない会話をしながら帰り道を2人並んで歩いていく。その途中で夕菜が俺の制服の裾を引っ張り、商店街の方角を指をさした。
「ねぇ! あの店寄ってこうよ! よーへーの好きなあの店! 久々にあそこのバターサンド食べたくなっちゃった」
彼女が言う「あの店」とはこの町の商店街の端にある古びた洋菓子店『ナポレオン』の事である。
俺はその店の「バターサンド」が大好物なのだ。故に普段から贔屓にしており、帰り道からは少しズレるが、バターサンドが食べたいが為に下校中によくその店に通っていた。
俺は彼女の提案を承諾するとその店に寄る事にした。
○○〇
入り口の扉を開けると「チリンチリン♪」と入店を知らせるベルが鳴った。その音に反応して店の奥にいた初老の男性が「いらっしゃい」と優しく声をかけてくる。彼がこの店のマスターだ。名前までは知らない。
「マスター、2名で!」
「陽平君、夕菜ちゃん、いらっしゃい。今日もいつもの?」
「ええ、お願いします」
「よーへー、ゴチになりまーす!」
「…別に奢るとは言っとらんぞ」
夕菜が俺にたかってくる。…別に奢っても良いけどね。
俺と夕菜はよくこの店を利用するので、マスターにも顔を覚えられていた。なので「いつもの」と注文するとマスターには伝わる。
…ちなみに「いつもの」とは「バターサンド」と「特製ブレンドコーヒー」のセットである。バターサンド150円、コーヒー400円の計550円だ。
『ナポレオン』の店内には椅子とテーブルが設置してあり、店内でも飲食ができるようになっていた。俺たちは店の奥に進むとテーブル席に着く。注文した品はすぐに運ばれて来た。
サクサクのクッキーに濃厚なバタークリームが挟まれたバターサンド。これを見るだけでも涎が出る。
そして香ばしい香りのするコーヒー。この店の特製ブレンドで苦みが少なく、俺たち学生でも飲みやすい。これがまたバターサンドに合うのだ。
俺はこの店のバターサンドが昔から好きだった。自分で覚えている限りでは小学校高学年の頃からずっとだ。親にお小遣いを貰うと、よくこの店にバターサンドを買いに来ていたのを覚えている。
高1の時に再開した夕菜を幼馴染だと信じたのも、この店のバターサンドを俺が大好きなのを彼女は知っていたからだ。
初対面の人の好物が分かる人間などまずいない。以前に交流があったのだと判断するのが普通である。
「あぁ…ここのバターサンド久しぶりぃ~。…昨日も食べたけど」
「全然久しぶりじゃないじゃないか!?」
俺は彼女にツッコミを入れつつ、自分もバターサンドを味わう。
甘~いバタークリームが口の中に広がり、脳に甘い幸福を届ける。
…う~ん、やっぱこれだね!
夕菜はとっくにバターサンドを食べ終え、コーヒーを楽しんでいた。コーヒーを一口飲んだ彼女はカップをソーサーに置くと、改まった様子で俺の方を見て口を開いた。
「それで…あの子からなんて言われたの? 聞いたんでしょ?」
おそらく彼女はそれが聞きたくて俺が学校から出て来るのを校門で待ち、この店に誘ったのだろう。
なんだかんだ彼女とはもう2年の付き合いになる。大体どのような行動をするのかは分かっていた。だから俺もここに来るまで彼女にその事を話さなかったのだ。
「ああ、それがだな…」
俺も自分の中の疑問を解消させたかったので、彼女に日向から聞いた話を話す事にした。
◇◇◇
日向から聞いた話を夕菜に話す陽平、彼女はいったいどのような反応をするのか?
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