転校生の衝撃発言

「君の幼馴染の京極日向きょうごくひなた。約束を果たしに戻って来たよ! 陽平!」


 えっ、誰? 京極日向? 俺の幼馴染だって!? …なんか幼馴染が増えたんだけど。


 だがそんな名前の人間は俺の記憶に無い。しかも目の前にいる美少女は『煌めき☆小町』の京町陽菜ソックリである。


 頭の中でそれらの事柄がグルグルと渦を巻く。一体どういう事なんだ?


 俺は一種の混乱状態に陥っていた。


 目の前にいる美少女は俺の表情から彼女の事を覚えていないと察したのか、悲しげな顔をした。…その悲しげな表情ですら愛らしく感じてしまうのだから美少女は凄い。


「えっと…もしかして覚えてないかな? 昔、あんなに一緒に遊んだのに?」


「ごめん…全然覚えてない」


 俺は彼女にそう謝った。でも仕方がない。いくら記憶の中を遡ろうが「京極日向」という名前の少女は出てこなかったのだから。


 …彼女の勘違いとか? ぶっちゃけ俺はどこにでもいる冴えない容姿をした普通の陰キャ男子だ。誰かと勘違いされてもおかしくはない。


 でも先ほど彼女は俺の事を「陽平」と名前で呼んでいたな? 俺みたいな冴えない容姿をした「陽平」という名前の陰キャがそんなピンポイントでいるだろうか?


 そう考えると人違いでもないと。


 …となると本当に彼女とは幼馴染なのか。幼い頃の俺は夕菜とこの京極さんの2人とよく遊んでいたという事か? 全く思い出せない。


 う~ん…夕菜の時といい、俺の記憶力はどうしてしまったのだろう? 


 ここ数年の記憶は全く問題ないのだが、幼い頃…小学校低学年辺りの記憶となると全く記憶がないのだ。


「そう、私はあの時の約束を果たすためにこれまで一生懸命やってきたのに、君は全くそれを覚えていないんだね…」


 俺を見る彼女の目尻にだんだんと涙が溜まる。大粒の涙が彼女の頬を伝ってポトリと落ち廊下を濡らした。


 あぁ…やってしまった。女の子を泣かせてしまった…。


 周囲にいる野次馬たちが「美少女を泣かせた」と俺に非難の目線を投げかける。


 …例え自分に全く悪意が無かったとしても、自分のせいで女の子を泣かせてしまったという罪悪感はぬぐえない。


「テメェ! 陽菜ちゃんの幼馴染というむっちゃ幸運なポジションにいながらそれを覚えていないってどういう事だよ!?」


「お前は黙ってろ! 関係ないだろ!」


 隣にいた和正も彼女の涙を見て俺を責め立てた。


 …こいつ美少女に弱いからなぁ。俺と美少女のどちらの味方をするのかと聞かれれば、間違いなく美少女の味方をすると即答するだろう。


 でもとりあえず謝っておくか、彼女の事を覚えていないのは俺が悪いのだから。


「えっと…京極さん? 俺、記憶力悪くてさ。なんとか京極さんの事を思い出せるように頑張るから。その…泣くのをやめてくれると嬉しいな」


「あっ…」


 彼女はそこでようやく自分が泣いている事に気が付いたようだ。ポケットからハンカチを取り出し、急いで涙を拭う。


「ご、ごめんね。いきなり泣き出すなんて…重い女の子だと思われちゃったかな? でも…私はそれだけあなたの事を想ってたって事だから。それは分かって欲しいな」


 涙を拭いた彼女はそう言って「テヘッ」と笑う。俺はその笑顔に思わずドキッとしてしまった。


「じゃあ君に思い出して貰えるように頑張らないとね。えっと…コホン! 改めまして、私は京極日向。君の幼馴染…だったんだよ」


 彼女は自己紹介をしつつ、右手を俺に差し出してくる。俺も同じく右手を差し出し、彼女と握手を交わした。


「長岡陽平…です」


「うん、知ってる。ずっと会いたかった幼馴染なんだから」


 彼女は俺と握手しながら微笑した。


「良かったな陽菜ちゃん。幼馴染と再会できて…」


 そんな俺たちの様子を隣で見ていた和正も感動したのか男泣きしている。


 男の流す涙ってなんでこんなにキモ…むさくるしいのだろうか。


「なんでお前が泣いてるんだよ…。てか陽菜ちゃんじゃないって言ってるだろ! 彼女は京極さんだ」


「あってるよ」


「えっ?」


「私、先週まで『煌めき☆小町』ってアイドルグループで活動してたの。京町陽菜は芸名。本名が京極日向」


 俺は彼女の言葉に口をあんぐりと空けて驚いた。


 …マジで!? えっ、じゃあ俺の幼馴染を名乗るこの美少女は先週まで日本のトップアイドルをやっていたって事?


「陽平は私たちの歌…聞いた事ある?」


「あ、あるよ…。えっと『太陽の初恋』とか好きかな?」


 かなり有名なアイドルユニットらしいので、TVを見ている最中にどこかで聞いた事はあるかもしれない。しかし俺はアイドル自体にあまり興味が無かったので、どんな歌を歌っていたのかを詳しく知らないのだ。


 だがここで俺が「歌を聞いた事が無い」と言うと、彼女はまた泣いてしまうかもしれない。そう考えた俺は苦し紛れに先週妹の小夜がユニットの代表曲だと言っていた曲を答えた。


「わぁ! 嬉しいなぁ…。あの曲、陽平の事を思い浮かべながら歌ったんだよ」


 俺がそう答えると彼女は上機嫌になった。両手を合わせて感激したというようなポーズをする。


 俺の事を思い浮かべながらって…その曲は幼馴染の事を歌った曲なのか? メロディはなんとなく聞き覚えがあるが、歌詞までは覚えていなかった。


「あっ、それと私の事は『日向』でいいよ! 陽平も昔そう呼んでいたし、その方が昔を思い出すかもしれないでしょ? そっかぁ…あの曲が陽平のお気に入りなんだ。えへへ♪ 私もね、あの曲が1番好きなの」


「は、はぁ。そういえば…さっき俺との約束を果たしに来たって言ってたけど、それは…?」 


 あまり曲の内容について深堀りされるとボロが出るかもしれない。なので俺は話を反らす事にした。


 約束の内容について尋ねると彼女は先週の引退会見で見た時のように頬を赤く染めて口を開いた。


「ここで言うのはちょっと恥ずかしいけど…でも約束の内容を聞けば私の事を思い出すかもしれないし、思い切って言うね。その…私と陽平はね。幼い頃、結婚の約束をしたんだよ。私はその約束を果たしに戻って来たの!」


「え゛?」


「「「「「ええーーーーーーーーーー!?」」」」」


 彼女の爆弾発言に周囲の生徒たちも皆驚きの声を上げたのは言うまでもない。



◇◇◇


いきなり幼馴染を名乗る美少女から告白された主人公、今後どうなる?

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