第16話 異界 ④

前書き

大事なお知らせです。

この度本作のタイトルを下記に変更致しました!


旧題『異世界帰りの孤高の勇者と落ちこぼれお嬢様』

新題『孤高の勇者のプロデュース』


詳細については近況ノートを投稿しましたので、そちらをご確認ください。

タイトルが変わっても内容に変更はありませんのでご安心を。

これからも拙作をどうぞよろしくお願い致します!


+++


 その後私たちは、更に勢いを増してこの大山の斜面を猛進していた。

 無限に襲い掛かってくるようにも思えた餓鬼達は、ここにきて急速に数を減らしていき、遂には1体も見えなくなった。


「位置的に、そろそろ『浄瑠璃蜘蛛』の成長個体が住処にしていたという神社跡に到着しそうね」


 私は『マナデバイス』で立ち上げた"地図アプリ"のウインドウを確認しながら、横を並走する怪斗に声を掛けた。

 表示された地図には私たちの現在位置を表すドットが、頂上付近の『旧大山神社 本社跡』という文字のすぐ近くで点滅している。


「異界の中でも現在位置がわかるのは便利だが、一体どんな仕組みだ?」

「さあ?『マナデバイス』なんてオーバーテクノロジーの塊みたいなものだし、詳しい仕組みなんてわからないわよ。便利なのだから、いいんじゃない?」

「それもそうか」


 怪斗は納得したのか気にするのを辞めたのかはわからないが、大人しく疑問を収めたようだった。


 『マナデバイス』含むこの時代のマナ工学の品々は、その殆どが豊光公爵家の【稀代の天才】がたった一人で発明したものだ。

 あの天才が居なければ、現代の『マナデバイス』に支えられた便利な生活は間違いなく実現できなかっただろう。彼女が別名で"マナインフラの祖"と呼ばれる事からも、それがよくわかる。


 まあ、あの人の性格は変わっているけれど、天才というのは人とは違うものよね。


「異界の主はこの神社跡に居ると思うか?」

「恐らくね。『浄瑠璃蜘蛛』の成長個体が住処にしていたというなら、そこには瘴穴があったはず。主が根城にするなら瘴穴が最適だから」


 異界の主は瘴穴から噴き出す瘴気を基に、自身の異界の展開であったり配下の作成を行う。

 如何に強力な怪異と言えど、自身の力だけで百鬼夜行や異界を維持するのには限界があるので、環境を利用するわけだ。


「賀茂嬢は、清川村の村人は一体どこに消えたと思う?」


 怪斗の疑問は、私がここまでずっと胸に抱いていたものだった。


「ここまで一度も人の姿は見なかったわ。正直、普通の人がこの異界の中で生き残れるとは思えない。中には人間を配下にする怪異も居るけれど、基本的に怪異にとって人間は食糧でしかないから……」


 明言こそ避けたが、清川村の失踪がもしこの異界の主の仕業だとしたら。

 村人の生存は、絶望的だと思う。


「仮に今回の失踪の犯人がこの異界の主だとすればだ。こうして早期に発見できたのは不幸中の幸いだったと考えるべきだな」

「ええ、何せ襲われてもわからないのだから。気付いた時には大きな被害が出ていたかもしれないわ」


 痕跡を残さず数百人の人間を失踪させるという事は、襲われた人々は一切の抵抗が出来なかったはずだ。清川村は周囲を人外領域に囲まれた陸の孤島とでもいうべき村で、人の往来は最低限しかなく、異変には外部の人間は気が付きにくい。

 私達だってこうして依頼が出て実際に村を訪れなければ、事態に気が付くことはなかった。つまり、被害は人知れず拡大していく。

 そして、人間を襲えば襲うほど、その怪異は力を増していく。

 気付いた時には、手に負えないほどに成長していたかもしれない。


「何としても、ここで討滅しないと」


 この異界の主である鬼系統の怪異がいるはずの『旧大山神社 本社跡』は、もうすぐそこだ。


+++


後書き

『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』の"長編部門"に参加中です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る