第13話 異界 ①

前書き

先程近況ノートにも投稿させていただきましたが、本日より『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』に応募させていただきました。

ぜひぜひ応援のほどよろしくお願い致します!

そんな訳で本日(日付超えた)感謝の3話連続更新。

こちらは2話目。


追伸

3話目も日付跨ぎますが、寝るまでは今日だからセーフですよね(?)


+++


 まず雛菊が行動として選択したのは、近隣にある"大山"の異界調査であった。


「そもそも私たちがここに来たのは、大山に新しくできた異界の主討滅の依頼を受けたから。この異界の主が村に起きた異変要因の第一候補であるのは間違いないわ。仮に今回の件に一切関係が無くても、C級まで育った怪異を放っておくメリットは無いのだし、その場合でも疑うべき要素を外せるのだから一石二鳥ね」


 雛菊の言葉の通り、俺達でわかる範囲で村の調査は行ったが、何も"犯人"の痕跡を見つけることは適わなかった。

 今は当初の予定通りC級の主を討滅しに向かいつつ、異界の調査も並行して行うという意見には俺も同意であったので、俺たちは大山の麓付近を歩いていた。


 大山の異界の主は依頼の通りであれば、蜘蛛系統のC級怪異。

 元々この地では山頂付近にある神社の本社跡を、女型の蜘蛛系怪異の一種である『浄瑠璃蜘蛛』が住処としており、依頼のC級怪異はこの『浄瑠璃蜘蛛』が成長したものと予想される。


「たしか主の怪異の種族や系統に合わせて、異界の環境や配下の"百鬼夜行"が変化するんだったよな?」

「ええ、そうよ。『浄瑠璃蜘蛛』は地域によって"蜘蛛系統"と"人形系統"に分かれるのだけれど、今回の『浄瑠璃蜘蛛』は蜘蛛系統だったと報告が上がっているわ。異界は蜘蛛にとって過ごしやすい、木に覆われた見通しの悪い山岳地帯でしょうし、配下もきっと蜘蛛系の怪異でしょうね。蜘蛛系の異界はトラップや奇襲が多いから、注意して」

「了解だ」


 大山の異界は山頂を中心としてドーム状に麓まで展開されていた。

 異界の表面は濃紫のおどろおどろしい瘴気ーー陰の属性に汚染されたマナで、基本的に陽の属性を持つ人間に対して害を及ぼす、怪異特有のマナだーーに覆われており、中の様子を見通すことはできず、同様にマナや気配による感知でも中の様子を伺うことはできない。鬱蒼と茂る緑の森の先に世界を隔てるように広がる濃紫のドームの様相は、まさに"異界"という名が相応しいように思えた。


 不思議なのは、異界はこんなにも目立つ見た目だというのに、近くまで来なければ一切この異様な瘴気のドームを視認することが出来なかった事だ。

 異世界あちらの世界で似たようなものを挙げるとすればダンジョンであるが、ダンジョンは自然の洞窟や遺跡等に淀んだマナが溜まった結果発生する物だ。

 内部こそ物理法則を無視した規模と様相の異空間そのものだが、外から見る分には自然に溶け込んでおり見た目に違和感はない。

 対して異界は遠くからでは視認できないが、近くで見るとその異様さが一目瞭然である。

 異世界あちらの世界であらゆる超常を目にした俺をして、この異界はどこか不気味に映った。


「さて、そろそろ突入しましょうか。準備の方は?」


 そう言って腰の刀をスラリと抜刀する雛菊。抜き身の姿を初めて目にする彼女の刀は、刀身の波紋が彼女の瞳と同じ翡翠色に鈍く光り輝いていた。


「賀茂嬢がそれを抜いているのは初めて見るが、綺麗な刀だな」

「賀茂一族の≪暴風の加護≫を十全に活かすために、風属性のマナを練りこんで特別に鍛えられた魔刀よ。見た目の美しさはもちろんだけれど、武器としての鋭さも相応なんだから」


 自慢げに自身の愛刀を構える彼女の姿は、中々堂に入っていた。


「武器はそれとして、防具は何か付けないのか?」


 雛菊の見た目は上下揃いの黒の和服の上に翡翠色の羽織を背負っており、近接系戦士特有の鎧やアーマーのような防具を身に着けている様子はなかった。


「こう見えてこの上下揃いの黒服は≪防壁≫をお抱えの"付与士"によって付与した賀茂一族専用の支給品だし、上の羽織は≪防刃≫と、≪防壁≫の上位互換にあたる≪防護≫を付与した特注品よ。少なくともD級怪異に殴られたくらいじゃ傷一つつかないでしょうね」

「その見た目で防具なのか。付与ってのは便利だな」


 異世界あちらの世界ではダンジョンから特殊効果の付いた武器や防具が出土することはあったが、人の手で特殊効果を付ける事はできなかった。

 こちらでは"付与士"とやらが特殊効果を付与できるらしい。便利そうだから今度調べておこうと俺は密かに心に決めた。


「今更だけど、あなたこそそのままで良いの?武器とか防具は?」


 準備万端と言っていい彼女の様相に対して、俺の姿は白いTシャツに青いジーンズ。ポケットには手を突っ込んでいて、まあこれから戦いに向かう格好とはとてもではないが言えない。


「俺のこの肉体こそが最強の武器であり防具だ。つまり、余計な道具は必要ない」

「そう。お手並み拝見ね」


 既に見慣れたと言ってもいい、挑発的な笑みを浮かべこちらを仰ぎ見る雛菊。

 こちらこそ、我が使のお嬢様のお手並み拝見といこうではないか。


「それじゃ、行きましょう」


 俺達は揃って瘴気に覆われた異界に足を踏み入れるのだった。

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