1章 帰還した元勇者と落ちこぼれのお嬢様
第1話 異能大家の落ちこぼれお嬢様
日本が誇る異能大家、五公の一角である賀茂家。
世界が変わった
隕石の落下と時を同じくして突如世界中で同時多発的にお伽話の化物が出現し、人々を襲い始めた。
化物ーーのちに"怪異"と呼称されるそれらに既存の科学兵器は有効打にならず、かつ"怪異"は東京をはじめとする人口の多い大都市により多く発生し、かつ好んで人口密集地に集まる習性を持っていた。
自衛隊は首脳部の機能不全により自発的に防衛に回るも敢え無く壊滅し、日本に駐留していた米国軍も、軍による銃撃も戦闘機による爆撃も意味をなさない事実を確認すると、自国を守るためという名目で早々に退去していった。
結果として、日本各地の大都市はほぼ無抵抗に近い形で蹂躙され、日本の政治機能及び経済活動、社会体制、そしてこれまでの常識すらも完全に崩壊した。
このまま滅亡を待つばかりかと思われたが、突如魔法のような力ーーのちに"異能"と呼称される力を使って怪異を倒していく人間達が現れ始めた。
科学兵器には効果を見せなかった怪異にも異能の力は有効で、人類は徐々に怪異へ対抗していくようになる。
異能の力は千差万別で、口から炎を吐く者が居れば、テレキネシスのように物を操ったりと、能力の種類も強さも個人差があった。
さて、
男の名は、
≪英霊召喚≫という稀有な異能により召喚された過去の英霊と共に次々と強力な怪異を討滅し、東京より津波の如く押し寄せる怪異の大軍を押し留めたまさに【英雄】であった。
しかし、その
それらを討滅し、人類に安寧を齎したのは、神をその身に宿す四つの皇族の血を継ぐ宮家。
うち、鎌倉の『平将門』を討滅したのは、暴風の神『
その後、
ーーー
歴史と誇りある賀茂宗家現当主の長女であり、"賀茂の汚点"。
ーーそれが私、賀茂
異能は基本的に両親の持つ物が子に引き継がれやすい。中には例外もあるが、それ故に《異能士》の家系は、血を大切にする。
賀茂の一族に受け継がれる異能は2つある。
1つ目は、初代当主の異能である≪英霊召喚≫。
召喚した過去の英霊を召喚し、契約することで共に戦うことが出来る。初代様はこの異能により伝説の剣豪『伊藤一刀斎』と契約して、人類の生存圏拡大に大きく貢献した。
2つ目は、≪暴風の加護≫。
初代様の功績により、我が賀茂家の主君たる
賀茂宗家の人間はこの2つの異能を受け継げねば宗家として認められず、賀茂の名を名乗る事を許されない。
『
現当主正妻の実子である私は、幸いなことに上記2つの異能を継ぎ、加えて別の異能を2つ、計4つの異能を持って産まれた。
産まれた時にはそれはもう大層喜ばれ、"神童"だと持て囃されたものだ。
しかし、幸福な時間は、そう長くは続かなかった。
理由は、私のマナ保有量にあった。
異能士の異能はマナを用いて超常を顕現する。異能士のマナ保有量は、マナの扱いを学び、訓練するほど伸びていく。
怪異も異能も、全て
ーー怪異に限って言えば、その上のSSなんてものも存在するが、ここでは割愛する。
とにかく、マナ保有量が多ければ多いほど、強力な異能を使うことが出来るわけだ。一般の異能士の基準で言えばマナ保有量がC級もあれば一人前と言えるが、賀茂は護国の剣である。
宗家であれば最低でもB級を求められ、A級は当たり前。当主クラスともなればS級になる。
しかし、私のマナは、15歳になるまでどんなに訓練しても、C級から増えることはなかった。
"神童"と呼ばれた私の評価は過去のものとなり、いつしか"落ちこぼれ"と見下されるようになった。
私の4つの異能のうち1つが全く使い物にならなかったのも、その評価に拍車をかけた。
それでも、まだ希望はあった。≪英霊召喚≫の儀で強力な英霊と契約できれば、評価を一新できる可能性があったからだ。
召喚される英霊は本人の資質に適した者が喚び出されるが、無条件に契約を結んでくれることは少なく、大抵は条件を出される。
条件はその英霊の性格によって変わるが、中には戦闘で屈服させるという条件も過去にあったため、≪英霊召喚≫の儀は成人したと見做される15の歳に行うのが決まりであった。
召喚した英霊の強さはあくまで本人の資質によってのみ決まる物であり、しかも英霊は主となる異能士のマナを必要としない。
それどころか、英霊の力が契約主に流れ込み、契約主を強化する。まさに≪英霊召喚≫こそが、賀茂宗家が百余年の間護国の剣であり続ける所以であった。
≪英霊召喚≫の性質は私にとって都合が良かった。マナの少ない私でも、召喚した英霊次第では強力な力を得られる可能性があったからだ。
ーーしかし、現実はまたしても、私に牙をむいた。
15の歳の≪英霊召喚≫の儀で、私の前に英霊が現れることはなかった。
≪英霊召喚≫の儀は、1年に1度のみ挑戦を許される。
1年間、血の滲むような努力をしたが、やはりマナ保有量はC級のまま。
そうして行われた16の歳の≪英霊召喚≫の儀でも、やはり私の前に英霊が現れることはなく。
私は"落ちこぼれ"どころか、"賀茂家の汚点"と本家の人間はおろか、使用人たちからすらも蔑まれるようになった。
私は賀茂の本邸に住むことを許されず、離れで生活していた。それでも私が何とか諦めないで居られたのは、使用人の中で唯一私を支えてくれた土橋 ヒルメのお陰だろう。
彼女は幼いころに亡くした私の母の古くからの使用人で、別の異能大家より嫁いできた母に付き従い賀茂家の使用人となった人だった。
私にとってヒルメは姉代わりのような人で、彼女が常に私に寄り添い、励ましてくれたからこそ、私はここまで頑張ってこれたのだ。
≪英霊召喚≫の儀への挑戦は3度まで。
3度目に失敗すれば賀茂宗家としての資格を失う。
今日これより。私、賀茂
そして、私の中に流れる賀茂の血の誇りのため。
最後の≪英霊召喚≫の儀に挑む。
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