第46話 昇格試験
昨夜の暗殺で疲労が蓄積していたらしく、起床したのは昼頃だった。肉体的な疲労というよりは精神的な疲労が溜まっていたような気がする。
常に気を張り詰めていたので無理もないと思う。しかし、【休眠】と若さで体調は良好だ。
身支度を整え、1階の食堂で昼食を済ませて、武具屋に向かった。
「いらっしゃい!おう、坊主!今日はどうした?」
「こんにちは。また武器の買い取りをお願いしたくて」
「おいおい!この間も武器を買い取ったばかりだぞ。こんな短期間に武器を売りに来る奴なんて坊主だけだぞ。それに、今回も大量の武器を買い取るとなると、流石に厳しいな」
まぁ、そうだろう。前回売り捌いた武器もまだ売れてないなら、利益が出てないからな。しかし、今回は武器は3つのみ。問題はない。
「今回売る武器は3つのみです」
「確かに少ないな。どれ、見せてみろ」
店主のおじさんに促され、収納空間から武器を取り出す。
「ほぉ!2つはそうでもないが、この槍はミスリル製の長槍だな!上等な武器だ!」
ハンニバル・バルク伯爵家のBランク相当の食客を奇襲し、奪った武器だからな。一目で良い武器なのは分かっていた。
「前にも聞いたと思うが、この長槍は坊主は使わないのか?」
うーん…主な武器はこのワイバーンの牙製の短剣だ。それと同じ等級の戦斧は予備武器として所持しているが、ミスリルとなると、Bランクの魔物素材で作られた武器と同じということになる。
【槍術】も所持しているので扱うことに問題はないが、わざわざ等級の低い武器を所持する理由はない。もっと上等な武器を所有する敵から奪えば良いだけのこと。
「この長槍は売ります」
「そうか。なら、買い取りは510,000エルケーだな」
「ありがとうございます」
武具屋を後にし、冒険者ギルドに向かう。あの武具屋は俺のおかげで儲かるだろうな。一般的な武器でも下級〜中級冒険者に売れるだろうし、上等な武器も上級冒険者が購入するだろう。
冒険者達で混雑していないギルド内を進み、依頼書版を確認する。できれば、高ランクの魔物が出没していないか期待したが、特になかった。
現在のレベルは75。早くレベルを上げてSランク冒険者の最低基準のレベル80を目指したい!上位種への進化という楽しみもあるし!
まぁ、そう都合良くはいかないか。地道にコツコツと強くなるために頑張ろう。
決意を新たにし、魔物狩りをしようと出入口に向かおうとすると、声がかかる。
「アレスさん!」
ん?呼ばれて振り向くとエミリーさんが駆け寄ってくる。
「どうしましたか?」
「ギルドマスターから昇格試験の話があったでしょう?でも、最近冒険者ギルドに顔を出さなかったので伝える機会が無かったので、声をかけさせてもらいました」
あ!そういえば、昇格試験のことをすっかり忘れていたな。犯罪組織の討伐や依頼主の暗殺で頭がいっぱいだった。
「すいません。それで、昇格試験の話しというのは?」
「日程はちょうど今日です。このままギルドマスターの部屋に向かいましょう」
エミリーさんについていき、ギルドマスターの部屋の扉をノックする。
コンコン
「ギルドマスター、アレスさんをお連れしました」
「入れ!」
エミリーさんが扉を開けて、どうぞと手で促してくる。
「アレス、待っていたぞ」
執務机から移動し、応接用ソファには座らず、向かってくるギルドマスター。
「すいません」
「体調でも崩していたのか?」
「いえ、傭兵ギルドの依頼を受けていて、それで少し忙しかっただけです」
「傭兵ギルドの依頼か…。盗賊や野盗の被害はこちらで把握してないが、それ以外ということか?」
「そうですね」
「そうか。この後の都合は問題ないか?」
「問題ないです」
「では、早速試験を始めよう」
ギルドマスターについていき、訓練場に向かう。ちらほらと木剣を振るう者や
「では、相手を呼んでくるので少し待っていてくれ」
訓練を行う者達を【鑑定】や【心眼】でステータスを確認して待っていると、ギルドマスターと身長も高く、体格もがっしりとした男が来た。
「では、双方の紹介は私が行うとしよう。此方が現役Aランク冒険者のジェラルドだ。そして、今回試験に挑むBランク冒険者のアレスだ」
「よろしくーーー」
「ギルドマスター、こいつはまだ坊主だぞ。本当にBランク冒険者なのか?」
「ああ、それは間違いない」
「だが、俺は納得いかねぇよ!こんな小僧の相手をしないといけないなんて。どう見てもAランクは無理だろう?」
「それはお前が決めることじゃない。私がAランク冒険者の昇格試験に挑戦するだけの実力はあると判断している」
「つってもよーーー」
「試験相手を務めるお前に依頼料は支払われるのだから問題ないだろう。それに見た目で侮り、足元を掬われないようにしろ」
「チッ!分かったよ」
「試験内容は一対一の実技試験。スキルや魔法を使うのは良いが、この訓練場を破壊するような規模は禁止だ。当然、致命傷となる怪我を負わせるのも禁止だ。武器は木製なものを選べ」
「俺は無手でいい」
「では、僕も無手で」
「おいおい、本当にいいのかよ?」
「はい」
「チッ!舐めたガキだ」
「双方、位置につけ!」
相手はAランク冒険者。ステータスを視ることはできないが、おそらく大剣や斧、盾などを扱う重戦士。そして、格闘戦も得意とする。
胸を借りるつもりで挑むとしよう。
「では、始め!」
2人がどちらも駆け出し、拳と拳がぶつかる。これでどれだけ力量差があるか分かる。そして、結果は俺の拳の威力が上だった。
「な!」
ジェラルドという男は驚いて、一度後退し、拳を摩る。威力は上ということはステータスの筋力値が勝っているということ。
「オラァ!」
次は蹴りを放ってきたので、こちらも蹴りを合わせる。脛と脛同士がぶつかる。
「ぐっ!」
男は呻きながら再度、後退する。これで俺のほうがステータスが高いのは分かった。そして、力負けしていると分かった相手が取る行動といったら、強化だろう。
俺も【魔纏闘鎧】【身体強化】【練気強身】を発動し、再び
そうなると、ステータスが上の俺のほうが有利なわけで、ジェラルドは防戦一方となる。
「そこまで!」
ギルドマスターから静止が入り、攻防を辞める2人。
「これで実技試験は終わりだ」
「ま、待ってくれ!次は武器を使わせてくれ!」
「何故、お前が試験の続行を申し立てるのだ?」
「そ、それは…お、俺がこんなガキに負けるはずがない!だから、もう一度やらせてくれ!」
「はぁ…アレス、ジェラルドがこう言っているが、お前はどうする?」
「分かりました。やらせてもらいます」
「では、双方武器を選べ」
相手が何を選ぶのか確認すると、武器は斧だった。相手は自分よりステータスが低い。しかし、だかと言ってスキルレベルは高い可能性もある。
と言っても、俺も【高位斧士】を所持している。同じAランク相当の実力者同士なら、そこまでスキルレベルが離れている可能性は低い。
「ほう…アレスも斧か?」
「はい」
ちょうど、アダマンタイト製の戦斧を入手したのだ。そのための練習だと思って試験に挑戦させてもらうとしよう。
「おい、ガキ。お前も斧を使うのか?」
「斧も得意です」
「………」
「では、始め!」
今回は最初から【魔纏闘鎧】【身体強化】【練気強身】を発動させて攻撃を交わす。
幾度も木製の斧がぶつかり合う。振り下ろされる斧を同じく斧で受け止め、押し返し、横薙ぎに斧を振るう。
この攻防で予想はついた。【斧術】はレベル6〜7と思われる。俺と変わらないので、自然とステータスの差が勝敗を決める。
「そこまで!」
「ありがとうございました」
「………」
ジェラルドにお礼を伝えるが返事はなかった。
「ジェラルド。お前のように才能がある奴は大勢いる。そして、才能にも差はあり、アレスのように才能がある上に努力する奴までいるんだ。これからの態度や冒険者活動を見直すんだな」
え…この人、目を覚させるために昇格試験の相手に選ばれたのか?
それより、気になるのは試験結果だ。
「それで試験結果は?」
「当然、合格だ。この短期間にさらに実力も上げたようだしな。Sランクに昇格するのも時間の問題か」
「ありがとうございます」
「受付でギルドカードを交換してもらってくるといい」
「はい。失礼します」
その後、受付でエミリーさんに報告し、ギルドカードを交換してもらった。Bランク冒険者のミスリル製の
この世界に7人存在するSSランク冒険者とそれに匹敵するのではないかと言われる4人の異世界人。
ユリウスへの復讐を果たすなら、SSランク冒険者を目指す必要がある。確実に一歩ずつ、【強奪】と共に成長していこう。
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