第47話 悪食

 昇格試験を終え、無事にAランク冒険者に昇格した俺は傭兵ギルドに向かった。


 扉を開けて中に入り、中央にある依頼書版を素通りし、受付にある順位と名前が並ぶ棚を確認する。きっと、下から数えたほうが早いと順に見ていくが、50位を過ぎても見当たらない。


 ついには10位を過ぎ、一桁に入ってきたところで目が留まる。なんと、順位は6位だった。


 「そこで棒立ちになってどうしたの?」


 受付のお姉さんに声をかけられる。


 「その…ランカーになるというお話だったのですが、順位の高さに驚いておりまして」


 「そんな驚くことかしら?」


 「僕がこの街に来て受けた依頼ってスラム街にある犯罪組織の討伐だけなんですよ。それだけで、この順位は高いんじゃないかって。他の傭兵の方達の中には今まで依頼を受けてきて、実績を積み続けている人もいる中でこの順位ですから」


 「確かに普通のことじゃないわ。でも、忘れたの?アレス君はAランク冒険者相当のアドルフと[バンテン王国]傭兵ランキング6位のエイブラムとその他150名近い人数を倒しているのよ。それを考慮すれば妥当なんじゃないかしら」


 それもそうか。実力ある者を低い順位にする意味はない。それは冒険者ギルドでもそうだ。正当な評価をして頂けるのはとても嬉しいが、国を跨げば一から実績を積まなくてはいけない。


 それに、今活動しているのは中央小国家群の中での話。大国の傭兵ギルドに行けば二桁の順位又はランカーにすらなれない可能性もあるかもしれない。


 でも、やっぱり嬉しいは嬉しい。順位という分かりやすい結果はとてもモチベーションを上げてくれる。傭兵活動も頑張らないとな。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「お!ゴブリンの集落発見!」


 傭兵ギルドを後にした俺は森にやってきていた。短時間しか狩れないが、仕方ない。そう思っていたが、森を奥へ奥へと進み、彷徨っていたらゴブリンの集落を発見した。


 (思い出すなぁ…ジルガ爺さんとゼリス婆さんの修行の成果を確かめるため、挑んだ魔物達だ)


 「さて、短剣は使わずに肉弾戦のみで戦おう。でも、危険と判断したら武器や魔法も使用する。いくら相手が格下だからといって油断はできない。気を引き締めていこう!」


 ゴブリンの集落に突撃し、見張りのゴブリン2匹を拳撃パンチ蹴撃キック一発で頭部や胴体を貫通し、すぐに絶命した。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 そのまま集落に入ると、ゴブリンや上位種達が俺に気付き、下卑た視線で棍棒を振り上げながら、駆けてくる。


 それらの攻撃を捌き、拳撃パンチ蹴撃キックで応戦する。


 「グギャ…」


 「ギ…ギャ…」


 「ギャ…」


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 ホブゴブリンまだを殲滅し、残りはゴブリン・ファイターやゴブリン・マジシャン、ゴブリン・ジェネラル、ゴブリン・キング


 ゴブリン・ジェネラルが指示を出し、ゴブリン・ファイター達が襲いかかってきて、ゴブリン・ファイターが攻撃を仕掛けないタイミングでゴブリン・マジシャンの魔法が放たれる。


 今のステータスなら、ゴブリン・マジシャンの魔法攻撃を受けても全くダメージにならないが、全て避ける。


 「グガ…」


 「ギギャ…」


 「ギャ…」


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 ゴブリン・ファイターやゴブリン・マジシャン、ゴブリン・ジェネラルを倒し終え、最後にゴブリン・キングとの一騎打ち。


 ステータスもスキルレベルも俺のほうが上。


 「グガァアアア!」


 ゴブリン・キングの【威圧】により、一瞬身が竦むも、同じく【威圧】で無効化する。


 「オラァアアア!」


 ゴブリン・キングは目を見開き驚いているように見える。【威圧】を使えるのはお前だけじゃない。


 その後、ゴブリン・キングが大きな棍棒を振り下ろしたり、横薙ぎに振るってくるが、それを側面に手を添えて軌道をずらしたり、上体を逸らして躱したり。ステータスで負けている相手にどのように戦うか考えながら戦い、最後には頭部を貫き、倒した。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「レベルも上がらないか…」


 ゴブリン・キングはCランクの魔物だからな。これだけの数を倒したのに得るものは既得のスキルの熟練度のみ。それでもコツコツと。


 建てられていた納屋の中を確認し、解体していく。特に女性が囚われているということもなく、得るものは何もなかった。


 そこらに散らばるゴブリン達の死体を一箇所に集め、死体は頭部を残して解体し、肉や内臓を焼いて食べる。


 スキルを獲得していても、あまり使ってこなかった。正直、今の余裕のある生活なら進んでやろうとは考えていなかった。


 しかし、復讐相手が分かり、そのために魔法でもスキルでもない素の肉体の強化。ステータスには反映されないが、それでも強靭な肉体を得られる反則的なスキル【悪食】。


 これからは討伐した魔物も人種も喰らって行こうと思う。頭部だけは討伐証明として残しおく。


 「グチャ…グニュ…」


 数百体のゴブリン達を喰らっていく。数が増えて行く度に筋トレで筋肉をいじめ抜いた後のような感じに筋肉が張っているのが分かる。


 成長期なので量は問題ない。そして、ゴブリン・キングを食べ終えると身体中の筋肉が喜んでいるようだ。


 「すぐに服も買い直さないといけなくなるかもな」


 今日の狩りを終え、冒険者ギルドの前に空間転移テレポートした。


 

 

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