第43話 ランカー

 翌日、起床したのは昼頃。身支度を整え、一階の食堂で昼食を食べる。昼食のメニューは柔らかいパンに肉や野菜を挟んだサンドウィッチと果実水だった。


 サンドウィッチは1人前で皿に3個並べれており、とても美味しかったので追加で3回もおかわりしてしまった。


 「ふぅ…満腹だ」


 腹を満たし、宿屋を後にする。まず向かった先は傭兵ギルド。昨夜の一件を報告するためだ。


 「おはようございます。前回の犯罪組織の捕縛又は討伐の依頼の件で報告に来ました」


 「どのような内容?」


 「最後の犯罪組織を討伐しました。情報収集したところ、スラム街にある組織は3つということが分かったので、これで最後です」


 「分かったわ。死体や証拠はある?」


 「あります」


 「そう。ついてきて」


 お姉さんについていき、前回と同様の場所で死体を並べていく。


 「す、凄い人数ね…。この組織だけで前回の2つの組織分の規模だわ。それに、この人とこの人は見覚えがあるわね」


 「こっちがボスで、こっちが側近という感じでした。でも、強さは側近の男のほうが強かったですね」


 「ボスのほうはAランクの上級冒険者よ。確か名前は…アドルフだったはず。側近の男はこの国の傭兵で6位の上位ランカー。名前はエイブラム。凄腕の暗殺者として有名だったわ」


 アドルフはAランクの上級冒険者とは言っても、下位だろう。振り下ろされた戦斧を受け止めた時、そこまで威力を感じなかったからな。


 しかし、エイブラムは俺に近いステータスではあったと思う。でも、この男で6位か。5位〜1位の傭兵はAランク上位以上の実力者というわけか。


 「やはり、5位以上の傭兵の方達は強いですか?」


 「そうね…必ずしも順位が強さに直結するわけではないわ。君のようにランカーでもないのに、本来であれば格上の一桁ランカーを倒してしまう者もいるわけだしね。でも、傾向としては順位と強さは比例するわ」


 「なるほど」


 「確か…SSランク冒険者の一人が傭兵もしているらしいわ」


 SSランク冒険者…。冒険者の最高峰…。


 「SSランク冒険者という地位があるのに、傭兵稼業もするんですか?お金に困るようなイメージばないですけど」


 「それは分からないわね。どんな目的があって傭兵もしてるのか、多くは高額な報酬が目的でしょうけど、単純に戦闘狂とかかしらね。傭兵の依頼は人殺しや戦争などの依頼が多いから」


 なるほど。殺し合いの張り詰めた空気や高揚感が楽しいのかもしれない。


 「話が逸れてしまって申し訳ないないんですが、SSランク冒険者って何人いるんですか?」


 ギルドマスターに聞き忘れてしまったことをお姉さんに聞いてみる。SSランク冒険者は冒険者の最高峰、誰が知っててもおかしくはない。


 「公表されているのは7人ね」


 「公表されているのは…ということは、表に出ていない人でもいるんですか?」


 「噂程度だけど、大国の最上位ランカーやこの世界で有名な4人の異世界人達もSSランク冒険者に匹敵するのではないかと言われているわ」


 確かに大国であれば競争率が高いだろうし、その最上位ランカーともなればSSランク冒険者に匹敵してもおかしくない。それに、異世界人達は女神様から特典チートを貰っているはずだから、あり得る話だ。


 でも、ガリアスもユリウスも領土拡大の戦争をしているって話だ。レベルは魔物を倒すことででしか上げられない。人を殺しても経験値は上がらないのだ。


 あ!そうだ。この世界に来たタイミングが違うのだから、転生してから自力を上げ、そこから戦争を仕掛けるようになったのかもしれない。


 個有能力ユニークスキル【強奪】のおかげで成長速度は早いほうだと思うのだ。これからも冒険者業と傭兵業を熟して、強くなろう。


 「話を戻しますが、この2人は現役だったんですか?」


 「アドルフのほうは冒険者ギルドの管轄だから分からないけど、エイブラムは現役ね」


 「悪事に手を染めなくても、十分稼げると思うんですが?」


 「確かにそうだけど、麻薬売買や人身売買とかは冒険者でも傭兵でもできないことだから。それに、上級貴族も関与していたとなると、報酬も良かったんでしょう」


 「そうですね。では、死体の処理をお願いします。あと、アイザック・ビスマルク商会長とハンニバル・バルク伯爵の情報も頂けますか?」


 「はぁ…欲張りすぎると痛い目に合うわよ?」


 「気をつけます。ですが、情報はください」


 「分かったわ。それじゃ、報酬10,000,000エルケーよ。大金持ちね」


 「ありがとうございます」


 そう言って、出入口に向かおうとすると声がかかる。


 「待って頂けますか?」


 振り向くと、2階に上がる階段の前におじさんがいた。黒髪に白髪が混ざり、髭を整え、背筋がしっかりと伸びた細身の男。


 「何でしょう?」


 「少しお話がしたいのです」


 どんな話だろう?


 「分かりました」


 「貴方も来てください」


 おじさんはお姉さんも呼び、応接室に移動する。応接用のソファに座る。俺の対面にはお姉さんとおじさん。


 「では、私はシュリヴァと申します。この傭兵ギルドのギルドマスターをしております」


 「私はアレスです。Bランク冒険者兼傭兵をしております」


 「本題に入る前に今回の犯罪組織の捕縛又は討伐依頼で2つの組織を討伐したことは報告されていますが、その後については?」


 「先ほど報告がありました。最後の組織のボスであったAランク冒険者のアドルフとこの国の傭兵で6位の上位ランカーであるエイブラムを含めた約100人の討伐を確認しました」


 「そうですか。では、本題ですが、今回の件を踏まえた上で、アレス様をランカーにさせて頂きます」


 それはこちらとしても良い話だ。


 「お願いします」


 「順位については実績を考慮して決めさせて頂きます。明日以降、受付にある順位と名前が並ぶ棚にアレス様も追加されますので、確認をしておいてください」


 「分かりました」


 「以上でお話は終わりです」


 「では、失礼します」


 応接室を退室し、傭兵ギルドを後にする。あのギルドマスターからは本能的に屈するような気配は感じられなかった。ただ、弱くもない。


 次は武具屋に向かうとしよう。

 


 


 


 

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