第34話 情報

 演劇場は建物ではなく、屋外の舞台の上で開催するものだった。舞台を囲むように半円の長い石製の階段兼座席があり、皆が散り散りに座り、演劇を観賞していた。


 俺も少しだけ観てみようと空いている場所に座る。演劇の内容は旅をするある男が行く先々で人々を救済する英雄譚や平民の男と貴族令嬢が身分差という困難を乗り越え、結ばれる恋愛物語など。


 少しだけと言いつつ、見入ってしまった。衣装を着て、言葉に感情を込めながら演技する役者に、素直に凄いなと思った。前世でも演劇は観たことがなかったから、余計にそう思うのかもしれない。


 演劇が終わる頃には陽が傾き始めていた。演劇場を後にし、宿屋の夕食を楽しみにしながら、大通りを歩いていると、向かいから見知った奴らがやってきた。


 「よお、坊主。あの時の借りを返しに来たぜ。ちょっと、面貸せよ」


 冒険者ギルドで俺に絡んできた3人の男達。顔面を叩きつけてやった男が鼻に包帯をしながら、話しかけてくる。


 「断ったら?」


 「これからも俺らに襲われる心配をし続けないといけないし、お前が関わった奴らを襲う。お前のせいで関係ない奴らまで巻き込むことになる。それでも良いのか?」


 「…分かりました」


 「それで良い。ついてこい」


 男達について行く。ボロボロの廃屋が並び、道の端では浮浪者が座っていたり、寝ていたりする路地裏に入り、小綺麗な建物の前で止まる。


 中に入ると、右側に酒が並べられている棚とカウンター、左側にはテーブルと椅子がある。普通ならただの店だと思うかもしれないが。


 「お、来たか!そいつが例の奴か?」


 テーブルで酒を飲んでいた一人の男が立ち、声をかける。


 「ああ、そうだ。力を貸してくれ」


 「安心しろ。こっちはお前らも含めて8人だ。問題ないだろ」


 なるほど。3人では俺に太刀打ちできないから、人数を集めたのか。しかし、テーブルを囲んでいる5人もステータスはEランク程度。これなら、今日討伐した盗賊のボスのほうが強い。


 こいつらは俺をどう嬲ろうか考えているんだろう。油断しているようだし、さっさと終わらせるか。


 「あの?もういいですか?」


 「あ?何がーーー」


 以前、顔面を叩きつけてやった男の首を斬り飛ばす。全く呑気なものだ。


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「て、てめぇ!」


 「やるぞ!一斉にかかれ!」


 男達が短剣や手斧を携え、向かってくる。


 「【魔纏闘鎧】【身体強化】【練気強身】」


 「ぐはっ!」


 「ごがっ!」


 「や、やめーーー」


 『スキル【解錠】Lv.2を獲得しました』


 『スキル【遠視】Lv.2を獲得しました』


 『職業ジョブスキル【盗人】を獲得しました』


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「さて、最後に貴方ですね。動いたら殺しますよ」


 カウンターで店主をしていた男も俺に襲いかかろうとしたが、仲間が殲滅されて唖然としていた。


 「ま、待ってくれ!なんでも言うことを聞くから!助けてくれ!」


 「うーん…では、裏組織について知っていることを教えてください」


 「あ、ああ。ここのスラム街には3つの組織がある。その中の1つの規模や戦力はとても強大で、スラム街の実質的な支配者でもある。人身売買や麻薬売買、暗殺なども請け負っているらしい」


 「具体的な戦力は分かりますか?」


 「そこまでは分からない。ただ、その組織のボスは上級冒険者あるいは上位ランカーの実力者だと言われている。だから、誰も逆らえない」


 「貴重な情報ありがとうございます」


 「それなら、命はーーー」


 『既得のスキルは熟練度に加算されました』


 「助けるわけないでしょう」


 男達の死体を回収し、建物内を物色する。棚に並ぶ酒や店の売上の金も回収する。あ、そういえば盗賊達から回収した武器も武具屋に売らないとな。


 それと、回収した男達の死体はどうするかな。裏組織に属する奴らではなく、ただのゴロツキみたいだし。でも、裏組織を潰して一緒に傭兵ギルドに処理してもらえばいいか。


 もう少し裏組織の情報を集めるため、先ほど回収した酒を対価とし、浮浪者に声をかける。


 「すいません。この酒を無料タダであげるので、少しお話いいですか?」


 「何が聞きたいんだ?」


 「このスラム街を牛耳る裏組織について、知っていることを教えてください」


 「そうだな…娼婦やその子供を攫い、人身売買をしていると聞く。最近は、街娘なども攫っているらしいが、奴らが捕まることはない。衛兵を買収しているらしいからな。それに、俺達みたいな奴以外にも貴族や商人にも麻薬を売っているらしい。俺が知っているのはそのくらいだな」


 「ありがとうございます」


 その後も何名かの浮浪者に同じ質問をする。ただ、情報の内容はあまり変わらない。まずは、2つの裏組織を潰して、もう少し詳細な情報を得ることが先だな。


 スラム街を後にし、宿屋に戻る。


 「夕食をお願いします」


 「少々、お待ちください」


 空いている席に座り、運ばれてきた夕食を完食し、おかわりをする。腹を満たした後は自室で風呂に入り、1日の汚れと疲れを取る。


 風呂から上がり、寝巻きに着替えてベッドに入る。明日からは日中は魔物を狩り、夜はスラム街で裏組織を殲滅する予定だ。


 そのためにもしっかりと寝るとしよう。


 


 


 

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